2024年4月25日(木)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2019年3月9日

 その後、李登輝は「台湾にはおそらく他にもめまいで苦しんでいる人がいるだろう」と考え、退任総統の医療顧問団がある栄民綜合病院にこの問題を研究するためのチームを発足させた。さらには、この年の台湾医学会に七戸医師を招いて講演をしてもらっている。

 余談だが、2014年に訪日した際、李登輝は初めて北海道を訪れた。台湾の農業に大きく貢献した新渡戸稲造や磯永吉が学んだ北海道の地を見てみたいという思いからだった。

 このとき、曾文恵のめまいを治した七戸医師が家族とともにホテルを訪問してくれ、李登輝夫妻とも旧交を温めた。

 実は札幌訪問のスケジュールが決まったとき、李登輝夫妻が真っ先に「札幌には七戸先生がいるなぁ。ぜひお会いしてあのときの御礼をもう一度言わなきゃなぁ」と言われたので、私から連絡を差し上げたところ、快諾していただいたのだ。もちろんあれ以来、曾文恵のめまいは再発していない。

李登輝に学ぶ「指導者の心得」

 ガン治療、めまい治療の二つを例として取り上げ、李登輝が台湾の医療の前進にまで大きく貢献してきたことを述べたが、その根底にあるのは李登輝の確固たるいくつかの信念だ。

 多少表現が異なるが「国民が何を求めているか、常に心に留めて置かなければならない」あるいは「最高指導者たるもの、常に国家と国民を頭の片隅に置いておかなければならない」といった、李登輝がことあるごとに言う指導者の心得が、例に挙げた医療の面において成果を挙げたということだろう。

 民を思う心、信念、そして「私たちが実験台になろう」と決意した李登輝夫妻の信仰が、結果的に台湾の医療の前進と人々の健康に寄与したのである。

連載:日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

早川友久(李登輝 元台湾総統 秘書)
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

  
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