補講 北朝鮮入門

2019年3月14日

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礒﨑敦仁 (いそざき・あつひと)

慶應義塾大学准教授

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部中退。在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省専門分析員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。慶應義塾大学専任講師を経て2015年から現職。共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会、2009年)など。

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

2回目の米朝首脳会談は「物別れ」に終わったが……(写真:AP/アフロ)

 物別れに終わった2回目の米朝首脳会談だが、交渉が破綻したわけではない。トランプ米大統領は会談後の記者会見で交渉が「進行中」であることを強調し、金正恩国務委員長との関係について「互いに気に入っているし、良い関係を築いている」と述べた。

 北朝鮮側の態度も同様だ。会談翌日の『労働新聞』など公式論調は前向きで穏やかだった。その後、米韓合同軍事演習を非難する記事も出たが、トランプ大統領への批判は避けている。一方で、会談翌日未明の記者会見に陪席した崔善姫外務次官は会談後に記者に囲まれて「わが国務委員長(金正恩委員長)が今後このような米朝取引に対して、少し意欲を失くしたのではないか」と吐露した。北朝鮮の外交官が最高指導者の考えを推測で対外発信することはありえないので、これは米国に対する金正恩委員長の率直な不満を表明させたということであろう。

 北朝鮮はもともと最高権力者の一存で全てが決まる体制だし、トランプ大統領もワンマン経営者出身だ。それを考えればトップダウンの交渉で事態打開を図ろうとする「新しい方式」が変わるとも思えない。前回の会談結果に対する評価に続き、今回は今後の展望について北朝鮮側の対応を中心に考えてみた。

交渉戦略の練り直し迫られる金正恩政権

 北朝鮮は、交渉戦略の全面的な練り直しを迫られている。金正恩委員長は、元日の「新年の辞」で「米国が世界の前でした自らの約束を守らずに我が人民の忍耐心を誤判し、一方的に何かを強要しようとし、依然として共和国に対する制裁と圧力に進むのであれば、我々としても、やむを得ず、仕方なく国の自主権と国家の最高利益を守り、朝鮮半島の平和と安定を実現するための新たな道を模索せざるを得なくなることもあります」と述べている。

 全体としては前向きだった演説の最後に対米牽制のような一文が含まれたという形で、しかも「やむを得ず」「仕方なく」と繰り返していた。それだけに北朝鮮が「新たな道」に行く可能性は低いものと見られたのだが、今回の会談で北朝鮮が何も得られなかった以上、「新たな道」に進む可能性が出てきてしまった。

 第2回会談の決裂後、北朝鮮北東部・東倉里の「西海衛星発射場(ミサイル発射施設)」や平壌郊外のミサイル工場などで不審な動きが衛星写真に捉えられていることが明らかになった。東倉里の発射台とエンジン実験場は、昨年9月の南北首脳会談で永久廃棄すると約束していた施設だ。衛星で監視されていることは織り込み済みなのでブラフだと見られているものの、気になる情報である。

 北朝鮮は東倉里の発射場を使う時には事前予告をしたうえで「衛星打ち上げ」と主張する一方、2016、2017年に何回も行った移動式発射台からのミサイル発射実験は兵器開発であることを明示してきた。それでも米国はすべてをミサイル発射実験とみなしているし、そもそも国連安全保障理事会の決議は衛星打ち上げ目的での発射も禁じている。現時点で可能性は低いものの、金正恩委員長が再び「衛星打ち上げ」を強行したら事態は急激に悪化するだろう。

 とはいえ、米国との交渉を将来にわたって閉ざしてしまいかねない核・ミサイル開発路線への回帰は簡単ではない。今後数十年は政権を掌握し続けるつもりの金正恩委員長にとって、トランプ大統領が自身に賛辞を送ってくれている現段階で後戻りするのはリスクが大きすぎる。金正恩政権にとって今後の選択肢の幅は狭まっているということだ。

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