トランプを読み解く

2019年3月19日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

ぐらつく中国に対する「3つの選択肢」

 中国経済が低迷し、中国を取り巻く環境は着々と悪化している。中国国家統計局が発表した2月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.2と、前月から低下し、活動拡大・縮小の境目となる50割れが続いている。

 中国当局にとってPMI類のベンチマークよりも、社会不安に直接影響する雇用がはるかに重要だ。

 不況が工場や建設工事現場を襲うだけでなく、オフィスワーカーにも影響を与え始めた。良質な教育を受けたホワイトカラーもリストラや減給の荒波にさらされている。eコマース名門の「京東」やライドシェア大手の「滴滴出行」も苦境に陥っている(3月15日付け「ニューヨーク・タイムズ」記事)。

 この記事は、ホワイトカラーの就職難があることを示唆している。中国経済の低迷は政府公式発表のデータよりはるかに深刻ということだ。中産階級の旺盛な消費が経済成長を牽引し、製造業依存の成長モデルからの脱却を可能にする。しかし、消費者は財布のひもを締め、従来のように消費しなくなった。不滅なる人気を誇る不動産市場から繁栄を極めたハイテク産業まで、消費に対する情熱が失われ、経済の隅々まで影響が及んでいる。

 中国最大手検索エンジンの「百度」では、「求職」というキーワードの検索回数が昨年12月に過去最多を記録した。さらに、グローバル・ソース・パートナーズの調査によると、ハイテク産業や不動産デベロッパー、その他大手民営企業の人事部責任者への取材で、ここ数カ月におけるリストラ率が30%に達したことが明らかになった。

 人材紹介ネット大手「智聯招聘」では、昨年第4四半期の全業種の求人数が前年同期比で10%減少し、特にハイテク産業やネット系ベンチャー企業の2018年第3四半期の求人は同期比で51%も激減したという。アリババは採用計画を凍結し、「人材に対する継続的な投資」の重要性を認めながらも、「特に経済情勢が深刻である状況下」と付け加えて声明を発表した。

 中国は厳しい経済情勢に直面し、大規模なリストラや採用削減・凍結の嵐がもうそこまで来ている。要するに、米国は何も関税を25%に引き上げる必要はない。これを現状の10%に据え置いても、中国はこれから大変なことになる。それを踏まえて、トランプ氏には今、3つの選択肢がある――。

選択肢(1):中国と合意し、関税の引き上げをすべて撤廃する。ただし、合意の執行や、違反する際の制裁発動など面倒な問題は、先送りされることになる。

選択肢(2):中国と決裂し、関税を25%に引き上げる。そうした場合、米中関係が完全に崩壊し、本格的な冷戦状態に突入し、世界経済の大きな波乱要因にもなる。

選択肢(3):現状の10%関税を温存し、時間を味方につけ、中国がじわじわと弱っていくのをひたすら待つ。

 総合的に損得を吟味し、トランプ氏は今、(3)の選択肢に傾いているようにも見える。理由は選択肢(1)と(2)はともに、ハードランディングにつながりかねないからだ。

 米中貿易交渉について、中国商務省の王受文商務次官は昨年9月25日に開いた記者会見で、米国が「中国の首にナイフを突き付けている」ため、交渉を進めることが困難だと主張し、難色を示した。それが本音だったならば、たとえ合意されても、一時凌ぎの策にすぎず、良い結果にはならない。

 時間が問題を解決してくれる。トランプ氏はそう考えているのではないか。

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