チャイナ・ウォッチャーの視点

2019年3月19日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

経済力があって初めて軍備も増強できる

 米国の、中国に覇権を握られるという警戒感は、中国が仕掛けた冷戦を撃退し始めた。中国のパブリック・ディプロマシーは、シャープパワーと呼ばれ、米国内から排除され始めたのだ。米国は、中国のシャープパワーを排除しただけではない。冷戦を仕掛けたのは中国かも知れないが、米国は、米中新冷戦を構造化しようとしているかのように見える。

 米国は、米国および同盟国等の市場から、中国製の電子デバイスを排除しようとするばかりでなく、エネルギー資源の市場も利用しようとしている。2019年3月12日、ポンペオ米国務長官は、石油業界に対し、アジアや欧州をはじめとする地域で外交政策の目標を追求し、世界の「悪者」となっている諸国に制裁を加えるために協力を呼び掛けたのだ。

 ポンペオ国務長官は、米国内に潤沢に埋蔵されていることが判明したシェールオイルや天然ガスが「外交政策上の米国の立場を強める」という。「投資を促進し、パートナー国に米国からの購入を奨励し、悪者を罰することでわれわれは競う必要がある」と強調する米国は、ベネズエラ、イラン、ロシアを念頭に置いているが、中国も例外ではない。

 ポンペオ国務長官は、中国について、「威圧的な手段によって南シナ海でのエネルギー開発を阻止している」と批判し、東南アジアの諸国は2兆5000億ドル強に相当する可採埋蔵量にアクセスできなくなっているとしている。米国は、外交および安全保障に関する問題に対応するために経済的手段を用いているのだ。

 国家の活動を支えるのは経済力である。経済力があって初めて軍備も増強できる。米ソ冷戦を終結させソ連を崩壊させたのが、米国の戦略防衛構想(SDI:Strategic Defense Initiative)、通称「スターウォーズ計画」であるという見方がある。米国が、ソ連に対して軍備増強の競争を仕掛け、ソ連が経済的についていけず敗北したということだ。

米中新冷戦はソフトからハードへ

 そして、トランプ大統領は、新たなスターウォーズを仕掛けようとしている。2018年8月9日、ペンス米副大統領は、国防総省で演説し、トランプ大統領が創設を表明した宇宙軍について、2020年までに設立すると表明した。宇宙軍は、創設されれば、陸海空軍、海兵隊と沿岸警備隊に続く第6の軍となる。中国やロシアが宇宙空間での軍事力を向上させているのに対抗するのが目的であるとしていることから、米国が中国やロシアと宇宙において軍備増強を競うという意図が理解できる。

 米国は、INF全廃条約からも撤退し、中国の中距離および準中距離の対艦弾道ミサイルや極超音速兵器に対抗する意思を鮮明にした。さらに米国は、環太平洋合同演習(リムパック)から中国を排除し、台湾への武器供与を進める。

 米中新冷戦は、ソフトからハードへ移行しようとしている。中国のソフトパワーがシャープパワーと言われて排除され、貿易戦争の激化とともに経済問題に安全保障上の問題が含まれ始めた。そして、軍備競争へと発展している。軍備競争は経済力の勝負でもある。市場を二分して対立しつつも、直接の軍事衝突を避け、兵器開発や軍備増強で競争するのは、まさに冷戦構造である。

 しかし、1980年代とは異なり、貿易を始めとする国際的な経済活動は複雑になっている。しかも、米ソ冷戦でさえ、SDI構想などは米国経済にも打撃を与えた。米中新冷戦は、米国の思惑どおりに中国を抑え込むことができたとしても、米国だけでなく、日本や他の同盟国の経済にも悪影響を及ぼす可能性がある。

中国に残された時間は……

 米中新冷戦の行方を不透明にしているのはそれだけではない。トランプ大統領が、新冷戦を終える前に中国とディールする可能性があるからだ。反対に、現在では、米国議会と経済界が対中強硬の姿勢を強めている。トランプ大統領就任当時は、中国にとって最大の脅威はトランプ大統領であると認識されたが、相手を完全に打ち負かさなくとも自らのポイントになると考えればトランプ大統領はディールするということが、中国にも理解されてきた。皮肉なことに、トランプ大統領は、中国にとって救世主になるかもしれないのだ。

 トランプ大統領がいなくなれば、米国の対中強硬姿勢を変化させることは難しくなる。中国にとっては、トランプ氏が大統領でいる間に、米国とディールしなければならないということである。これまで、時間は中国の味方だと言われてきたが、トランプ大統領の任期を考えると、中国に残された時間は多くないかもしれない。


  
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