食の安全 常識・非常識

2019年3月26日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

“免疫力”は識別ワード

 実は、私には苦い経験があります。

 数年前、連載していた雑誌編集部に、“免疫力”という言葉を解説してほしい、と頼まれました。雑誌やインターネットで「免疫力を上げるには……」というフレーズをよく見かけますが、学術用語ではありません。定義がはっきりしないので、私のみるところ、まともな科学者は使うのを避ける言葉です。

 免疫は、外から入ってくる病原体を取り除こうとする重要な体の働きですが、過剰になるとアレルギー症状を引き起こしたり、自分自身すら攻撃する「自己免疫疾患」になったりします。そう考えれば、「免疫力を上げる」などという言葉遣いはできないし、特定の食品で感染症を防げる、という単純な話にはなり得ません。

 お茶やヨーグルトの論文を読み、「この言葉を使った健康解説などがあったらまずは疑う、くらいの識別ワードと思ったほうがいい」という原稿を書きました。

 ところが編集部から連絡が来たのです。「ヨーグルトは事例から外して欲しい」という依頼でした。

 その雑誌に広告を出している乳業メーカーから圧力が来たわけではないようでした。その前に、どうも編集部がスポンサーに忖度したのです。

 そのため、私は記事自体の掲載を取りやめてもらい、そのまま連載も終了しました。

 こういう話、少なくありません。スポンサーが圧力をかけるまでもなく、メディア側が自己規制をしています。

企業、メディア、研究者、みんながお得だが、消費者は……

 加えて、私が取材経験から感じるのは、研究者による悪しき連帯です。「インフルエンザに紅茶」をすぐに批判したのは、医師でした。食品の効果を検討している栄養学や農学の研究者は、声をあげません。

 国や大学等の研究費が少ない日本の研究者にとって、食品企業のようなスポンサーはありがたい。うっかり批判して、後に研究助成してもらえない、なんて事態は避けたいのです。

 それに、狭い世界なので、「○○に効果」と言っている研究者は友達、仲間、というケースも少なくありません。恩師がその企業から研究費を提供されていたり、自分の学生が将来、その企業に就職したいかも……。批判にブレーキがかかります。

 その結果、どうなるか?

 企業の根拠薄弱な「○○は効く」は、その企業にとって得、メディアにとっても、関心は高いのでテレビの視聴率は上がり、記事はよく読まれるし、スポンサーの覚えめでたくお得、多くの研究者も黙っていた方がお得、です。

 批判するには、論文に目を通し、ほかにもいろいろ調べて否定してゆく地味で時間のかかる作業が必要です。「インフルエンザと紅茶」を批判するのに、冒頭で紹介した2つの記事が、執筆にどれくらいの時間をかけたことか。よほどの正義感、公衆衛生に対する倫理観がないと、できないでしょう。

 圧倒的な量の宣伝、もてはやす記事と、わずかな批判と。その結果、不利益を被るのは、明確な根拠が実はないのに、「効く」と思って買う消費者。そして、消費者はそのことに気づいていません。

*後編へ続く→「食品企業の研究は“色眼鏡”で見よう」

【参考文献】

(株)水戸ヤクルト販売会社

ヤクルト中央研究所菌未来レポート

American Journal of Clinical Nutrition・Efficacy of daily intake of Lactobacillus casei Shirota on respiratory symptoms and influenza vaccination immune response: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial in healthy elderly nursing home residents.

Scandinavian Journal of Immunolocy・Immune Response of Healthy Adults to the Ingested Probiotic Lactobacillus casei Shirota.

International journal of sport nutrition and exercise metabolism・Daily Probiotic’s (Lactobacillus casei Shirota) Reduction of Infection Incidence in Athletes

Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry・Effects of a Fermented Milk Drink Containing Lactobacillus casei Strain Shirota on the Immune System in Healthy Human Subjects

EFSA Journal・Scientific Opinion on the substantiation of a health claim related to Lactobacillus casei strain Shirota and maintenance of the upper respiratory tract defence against pathogens by maintaining immune defences pursuant to Article 13(5) of Regulation (EC) No 1924/2006

明治・乳酸菌研究最前線

British Journal of Nutrition・Reducing the risk of infection in the elderly by dietary intake of yoghurt fermented with Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1. Randomized controlled trial

Gerodontology・Effects of yogurt fermented with Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1 on the IgA flow rate of saliva in elderly persons residing in a nursing home: A before-after non-randomised intervention study.

Nutrients・Anti-Fatigue Effects of Yogurt Fermented with Lactobacillus delbureckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1 in Healthy People Suffering from Summer Heat Fatigue: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial.


  
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