食の安全 常識・非常識

2019年3月27日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

企業研究を、どう見ればよいか

 ただし、企業による研究がすべてダメ、企業がスポンサーになる大学などの研究すべてが悪い、というわけではないでしょう。よい研究もあります。欧米でもLancetの主張に対して反対意見が出ています。

梅垣敬三・昭和女子大教授。健康食品への鋭い批判で有名。消費者への情報提供に、力を尽くしてきた

 薬学博士として国立健康・栄養研究所で長く研究員を務め、今年度から昭和女子大学の食安全マネジメント学科に所属する梅垣敬三教授に、尋ねてみました。梅垣教授は、前編で取り上げた乳酸菌のインフルエンザ予防効果の宣伝や健康食品のさまざまな表示広告の問題も、よくご存知です。

 梅垣教授はこう話します。

 「企業による研究や、資金の研究機関への提供は、もっと進めてほしい。食品にはさまざまな問題点がまだあるし、健康維持増進の可能性も秘めていると思います。研究が進むことは、社会の利益、科学の発展につながります。そのための費用を食品企業が出さなくなったら、いったいだれが費用を出すというのでしょう。研究は止まってしまいますよ」

 しかし、重要なのはそのデータがどの程度のものかを吟味すること。梅垣教授は、「研究がだれにより、どのような資金提供を受けたうえで行われたが公開されているうえで、研究結果を受け止める側が“色眼鏡で見る”いう姿勢を持つべきだ」と言います。

 結果が、企業寄りになっていないかを考える。「有益だ」というデータが出たら、「その可能性がある」という程度に受け止める。そして、関連する別の研究の結果が出てくるのを待つ、という感じです。

 学術論文では現在、研究者の所属を明確にし、どのような研究資金により行ったのか、どの企業から依頼されたものか等、つまりは利益相反に関する情報を記載するのがスタンダードになっています。こうした仕組みがあることで、前述のメタアナリシスのバイアスも見えるようになってきています。

 ちなみに、前編で取り上げた(株)ヤクルト本社関連の研究と、(株)明治関連の研究も、一部を除きほとんどがその企業の社員や資金提供によるものでした。したがって、その観点からも、色眼鏡で割り引いて受け止める、がよいのです。

 色眼鏡なんて、そんな手ぬるいことではダメ。企業研究の結果はどうせバイアスがかかっているのだから信じない、でよいのでは……。そう思う人もいるでしょうね。

 でも、企業の中には、コツコツと研究を進め、宣伝には利用していない、というところもあります。私も梅垣教授の意見に同感します。食品企業の研究を切り捨ててしまうのもまた、消費者の不利益につながると思うのです。

トクホ、機能性表示食品は……

 食品の健康維持増進効果については、広告宣伝で消費者を惑わすのではなく、研究を重ねて「特定保健用食品(トクホ)」や「機能性表示食品」として売り出す、という企業もあります。

 もっとも、この二つも性質が異なります。トクホは、研究データを添えて消費者庁に申請し、食品安全委員会や消費者委員会の審査の末に表示が認められます。研究自体は申請企業の研究であってもよいのですが、妥当性があるかどうか、解釈にバイアスがないか等、審査されます。

 審査にあたる専門家も、申請企業から研究費や講演料など一定額以上もらっていれば、審査から外れる仕組み。これにより、トクホは、企業に都合の良いバイアスのある研究を基にした表示を阻止しようとしています。

 一方、機能性表示食品は、ガイドラインを満たす製品を企業が届け出て表示する、という仕組みで、国の審査はありません。企業の恣意的な研究による表示を阻止する仕組みはありません。

 なんて複雑! とはいえ、一概に「全部ダメ」とは言えないので、こうした方法をとるしかないのです。

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