ヒットメーカーの舞台裏

2011年11月29日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 浴室の鏡に付着する頑固な水アカを研磨しながら落とす。鏡だけでなく洗面台や便器といった陶器、IH調理器の天板や鍋類など用途は幅広い。価格は1500円と決して安くはないが、競合品が少ないこともあって今年2月に発売すると9月末までに計画の5倍となる1万個を販売した。

和田商店 『ピカッと光るゾウ消しゴム』

 柄の先に固定されたやや硬めの「消しゴム」で水や洗剤とともに、洗浄部分をこすって汚れを落とす。素材はシリコンゴムを主成分に、研磨剤として珪石(シリカ)と工業用ダイヤモンドの微粉末を加えている。工業用ダイヤは高価だが研磨性能を高め、この製品のアピール点ともなっている。

 製造・販売は和田商店(埼玉県狭山市)で、社長の和田吉弘(39歳)が自社の従来品をベースに開発した。和田商店は和田の父親(同社会長)が1994年に設立した。父親はデパートなどでの商品の実演販売を生業としてきたが、与えられた商品を実演販売するのに飽きたらず、自ら商品を企画・開発するアイデアマンでもあった。90年代初めには野菜の皮むきや千切り器としてヒットした「プロピーラー」を商品化している。

 和田商店は、そうした自主開発品を事業化するために設立したのであった。和田は明治大学商学部を卒業して1年ほど大手の衣料チェーンに勤めた後、1996年に設立間もない和田商店に入社した。法人としての運営が軌道に乗り始める一方、実演販売も兼業して多忙な父親が「パンク寸前」となっていたのを見かねたのだ。

 プロピーラーなど調理器具は現在も手掛けているが、当初から生産は外部に委託してきた。この分野は競争が激しく、性能の良い機器を出しても安価な類似品が登場し、先行利益は長続きしないという難点もあった。そこで、自社で生産も手掛けて粗利を大きくできる独自商品の開発に努め、今回の「消しゴム」の原型となる「ピカピカ」を和田が入社した当時に商品化した。

 洗面台など陶器向けの固形研磨剤であり、工業用ダイヤは使用していないが素材は「消しゴム」とほぼ同じ。生協とタイアップしたこともあり、ピーク時には月に4万個が売れるという成果をあげた。その後、この研磨成分を基に多くの製品を展開していった。研磨剤と洗剤を混ぜたクレンザー状の練り製品、不織布に研磨剤を練りこんだタワシ状の製品などである。

設備投資ありきではない
文系だからこその柔軟な発想

 5年ほど前には調理機器の新規開発は中断し、研磨剤シリーズに集中する態勢をとった。和田によると「失敗作も少なくなかったが30アイテム程度を商品化した」という。そうした中から「消しゴム」が生まれた。従来の「ピカピカ」は洗浄力が強いものの、硬い固形物のために使いづらいという声も少なくなく、改良に乗り出したのだった。

 若干の柔軟性を持たせるためにシリコンゴムの構成比を増やしたものの、研磨するパワーは落ちた。そこで、工業用ダイヤに着目することとなった。和田は「もともと文系で工業技術の知識がないのが、逆にプラスになっている」と言う。先入観をもたずに試行錯誤するうちに、新しい素材や製法に行く着くことができるというのだ。

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