2024年4月19日(金)

片倉佳史&真理の「もっと!台湾探見」

2019年4月5日

ここ数年、日本からの旅行者が右肩上がりに増え、修学旅行の海外旅行先としてもトップになった台湾。この連載では、台湾在住約20年になるライターの片倉真理氏が、「知れば知るほど面白みと楽しさが増してくる」というその魅力を、秘境探索、建築探訪、郷土の美食などをテーマに紹介していきます。

数々の奇跡を起こしてきた航海の女神

 台湾に暮らしていると、人々の信仰心の篤さに驚きを感じることが少なくありません。大都市でも田舎でも、到る所に煌びやかな道教寺院があり、いつ訪れても熱心に手を合わせる人々の姿を目にします。そんな台湾でとりわけ深く慕われているのが「媽祖(まそ)」と呼ばれる航海の女神です。

媽祖巡礼は、台湾人も大興奮のにぎやかな宗教イベント

 台湾には2000以上の媽祖を祀る寺廟があります。媽祖は中国の宋(そう)の時代に実在した少女で、並外れた神通力をもち、数々の奇跡を起こしたそうです。

 台湾での信仰は明(みん)の末期から始まります。この時代、多くの人々が台湾海峡を渡って福建からやってきましたが、荒れ狂う海を乗り越える際、人々は必ず媽祖に手を合わせ、道中の安全を祈ったと言います。そして、台湾に到着後は必ずや、媽祖のご加護に感謝し、新天地での暮らしを始めました。

 台湾を取材していると、媽祖がどれほどの「力」を持っているかを頻繁に耳にします。たとえば、台湾中部の南投県にある清境農場を訪れた時のこと。標高2000メートルに位置する温泉ホテルのオーナーは熱心な媽祖の信者でした。彼は、ボーリングを行なう際、「聖杯」と呼ばれる赤い三日月型の木片を用い、媽祖の神意を尋ねながら、見事、温泉脈を当てたそうです。

 また、台湾最南端の屏東県萬丹にある媽祖廟にはこんな言い伝えが残っています。第二次世界大戦中、米軍が空爆を行なった際、空中に手のようなものが突如現われ、落とされた爆弾を町はずれに運んでいったとのこと。そして、橋の下に不発弾が並んでいたそうです。ここの廟のご神体は親指のない媽祖像で、人差し指も負傷しています。ちなみに、これは何度修復しても必ず落ちてしまうのだそうです。

 こうした伝承は枚挙にいとまがありません。摩訶不思議なエピソードばかりなのですが、人々はこうした逸話を違和感なく受け入れ、媽祖に親しみを抱いています。台湾という土地に漂う空気によるものなのか、または台湾の人々の信仰心に圧倒されてしまうのか、外国人である私たちですら、底知れぬ媽祖のパワーを感じずにはいられません。 


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