Washington Files

2019年4月8日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

軍内部の動揺を鎮静化

 とくに注目すべきは、軍の最近の動きだ。

 去る1月、グアイド氏が暫定大統領就任を表明した当初は、ベネズエラ軍将校の一部に現体制からの離反の動きも見られたが、その後はやや落ち着きを取り戻しており、現地報道によれば、軍首脳部の大半はマドゥロ大統領への忠誠を表明していると伝えられる。

 これに関連してロペス国防相は3月29日、テレビ放映を通じ、同国空軍内にロシア製軍用ヘリコプター・フライト・シミュレーション・センター開設を発表すると同時に、これに続いてロシア製スホイ輸送機用シミュレーション施設、ロシア製ライフル銃製造工場の建設計画も明らかにした。

 ロシア軍部との強固な関係確立を誇示することによって、ベネズエラ軍内の動揺を鎮静化する狙いがあるものとみられる。

 国連加盟国50か国以上がグアイド暫定大統領の正当性を支持する中で、ロシアが現体制維持にこれほどまでに固執する背景に、シリアでの“実績”があることはいうまでもない。

 シリア内戦勃発当初、アサド政権は、反体制弾圧政策などに反対する欧米諸国の厳しい批判にさらされ、一時は体制崩壊の危機に直面していた。しかし、2015年、かねてから経済的、軍事的な関係を深めてきたロシアが全力を挙げてアサド支援に回ったことで、局面が変わり、今日ではアメリカが期待していた「レジーム・チェンジ」(体制変更)の可能性は遠のいてきている。

 アメリカはオバマ前政権当時の2013年から2016年にかけて、アサド転覆を目指す反政府勢力支援のため、CIA部隊や米軍特殊部隊を派遣、約1万人のゲリラを対象に武闘訓練まで行ってきた。しかし、トランプ政権は2017年にはいって、これら米側支援部隊の「段階的撤収」方針を打ち出したほか、その後、アサド政権に対する態度もそれまでの「退陣要求」を封印したままとなっている。この結果、アサド独裁政権は国際的批判にさらされながらも、ロシアの力強い後押しに支えられて体制を維持し続けている。

 ただ、ベネズエラの場合、今後、どこまでロシアのシナリオ通り事が進むかどうかは未知数だ。

 ひとつは地理的な制約がある。ロシアにとって比較的近距離のシリアとは異なり、地球半周以上の距離もあるベネズエラにいつまでも大量の軍事物資や食糧を送り続けるわけにはいかない。かといってにわかに支援を見限れば、政権崩壊につながり、ひいてはロシア・プーチン体制の国際的威信を傷つけることになる。

 さらにアメリカが経済制裁を発動した今年1月以来、ベネズエラ国内各地では停電、ガソリン、医療品などの生活必需品不足にあえぐ市民の数も少なくなく、ロシアとしては今後も、人道援助面でもコミットメントを継続せざるを得ない苦しい事情がある。

 一方のアメリカは、今の時点で米軍部隊を投入しマドゥロ大統領強制排除に乗り出した場合、与野党勢力の激突と流血の大惨事に発展、ひいては“第二のベトナム戦争”にもつながりかねないだけに、悩ましいところだ。

 結局当面は、米露両国の間で、ベネズエラの行く末をにらんで次の一手が読みにくい難しい“チェス・ゲーム”が演じられることになりそうだ。

  
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