チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年11月24日

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 たとえば、移民先として中国の富裕層に一番人気のあるアメリカの場合、まさに各国からの富裕層移民をダーケットにした「投資移民」を受け入れる制度がある。それは米国への投資によるグリーンカード(EB-5投資永住権)取得制度で、米国に50万ドル以上投資すれば移民の申請が可能となる仕組みである。そして米移民局が最近発表したデータでは、中国人によるEB-5申請者は、2007年の270人(うち承認人数161人)から11年には2969人(同939人)へと急増したという。しかも、今年の中国人申請者は各国からの申請者全体の約4分の3を占めているのである。

 中国からの投資移民がアメリカで行う投資の主な項目はやはり不動産投資である。今年11月3日付の「楊子晩報」の掲載記事によると、2010年4月から11年3月までの1年間、中国人がアメリカ全国で実は2万3000軒の不動産を購入したという。この数字には、投資移民となった以外の中国人が不動産を購入した軒数も含まれているだろうし、おそらく、これから移民になろうと考えている人々の多くもその中に含まれているのではないかと思う。

 ちなみに、中国で人気のある移民先の一つとなっているシンガポールでも、中国人が不動産を買い漁る現象が起きている。11月19日付の北京の有力紙である「新京報」は、過去15カ月間、シンガポール国内の高級住宅の約3割が中国人によって買われてしまったと伝えている。中国人富裕層の海外個人投資はまったく凄まじいものである。

海外への「大逃亡」はなぜ起こるのか?

 このように、中国の富裕層はその個人財産を持ち逃げするような形で競って海外へ「大逃亡」しているが、それは一体なぜなのだろうか。

 海外への移民ブームがとくに顕著となった原因の一つは、やはり今年に入ってから中国経済が徐々に傾いてしまい、「不動産バブル」が崩壊しかけていることにあろう。国内の事情に明るい富裕層の人々が情勢の悪化を敏感に察知し、沈もうとする船から一斉に逃げ出そうとしているわけである。

 それはまた当然の成り行きでもあるが、近年の移民ブームの原因はそれだけではない。

 中国の富裕層が移民したがる深層的な理由について、2010年11月10日付の中国国内紙『経済参考報』は示唆に富む記事を出している。

 記事はまず、エリートや富裕層による「移民ブーム」が起きていることを指摘した上で、その理由を探るべく、当事者たちに取材を行っている。そして、中国国内の環境汚染や食品・医薬品の安全問題、公共サービスの悪さや社会的不平等、法体制の不整備と権力の横暴を原因とする「不安感」や投資・ビジネス環境の悪化などが、多くの人々を海外移住へと駆り立てた諸要因となっていると指摘しているのである。

 言ってみれば、中国の自然・社会・政治・経済環境の全体、すなわち「中国」そのものに対する中国人自身の嫌気と不信感こそが、現在の移民ブームを引き起こす要因となっている、ということである。

「足」を使って「投票」する中国人

 10年10月に発売された「英才」という月刊誌では、北京師範大学金融研究センターの鐘偉教授が論文を寄稿して同じ問題を取り上げているが、鐘教授はここで、「足による投票」という面白い造語を使って今の移民ブームの本質を説明している。民主主義国家では、選挙のとき、人々は両手を使って投票用紙に何かを記入して投票箱にいれ、それをもって自らの政治意思を表明するのだが、中国ではそんなことができない。そうすると、人々は「手」ではなく「足」を使って「投票」してしまう。つまり足を動かして中国から逃げることによって、この国の現状に対する自分たちの認識や未来への見通しを示しているのである。

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