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2019年4月17日

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倉都康行 (くらつ・やすゆき)

RPテック代表取締役、国際金融評論家

1979年東京大学経済学部卒。東京銀行、バンカース・トラストを経て、チェース・マンハッタン銀行。2001年4月に金融シンクタンクのRPテック株式会社を設立。

遅れる中国の市場整備
当面続く米国の通貨覇権

 さらに、人民元の運用機会が制限されていることや、債券市場の多様化や透明化が遅れていることも、人民元が国際通貨体制のメジャー・グループに入れない要因となっている。例えば主要通貨の場合、準備通貨として保有する中銀など公的機関や貿易決済のために外貨を保有する企業、それを預金として受け容(い)れる銀行は、当該国で運用する機会を探さねばならない。

 米国や日欧などでは短期から超長期まで幅広い満期を擁する国債が常時売買されており、格付けが高く流動性も高い投資適格社債や証券化商品なども存在する。だが中国の場合、国債市場は発展中だがまだ海外投資家が自由にアクセスし得る状況ではなく、社債などの信用格付けも整備されている状況からはほど遠い。

 為替市場だけでなく社債などの資本市場にたびたび政府介入が見られることも、市場が政治的に歪(ゆが)められていることを示唆している。また外貨を中長期で保有する際には時にヘッジ機能も必要になるが、人民元の場合はオプションやスワップなどのデリバティブズ取引は未発達である。

 換言すれば、人民元が主要な準備通貨として認められるには、中国の国家主義的資本システムが胚胎する「非市場的ルール」という印象が断ち切られる必要がある、ということでもある。だが13年に習主席がトップの座に就任して以来、市場化や自由化などの構造改革機運は大きく後退しており、米国による圧力もその流れを変えるには至らないだろう。

 08年に金融危機が世界を襲った際には一気にドル不信が巻き起こり、ドル一強体制の終焉(しゅうえん)まで囁(ささや)かれたことがあったが、約10年が経過して判明したことは、逆に国際通貨体制におけるドルの強靭(きょうじん)さであった。ユーロなど既存通貨だけでなくSDRのようなバスケット通貨構想もドルを代替する力が無(な)いことが、あらためて確認されたのである。

 そして経済力では目覚ましい拡大を続ける中国の人民元が準備通貨の主役候補になれそうにないことは、米国の通貨覇権がまだ当面持続することを意味している。奇妙な話ではあるが、米中覇権戦争におけるトランプ流の圧力が効かずに中国が市場経済国へと変身しない方がドルの長期的覇権を担保することになる、ということもできる。

 つまり、外貨準備に占めるドルのシェアがいずれ50%台に低下し、人民元が5%程度まで上昇することになったとしても、中国が国家主導の経済モデルを放棄しない限り、ドルの「世界通貨」としての役割が低下したり存在感が薄れたりすることはないだろう。

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