日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2019年4月12日

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早川友久 (はやかわ・ともひさ)

李登輝 元台湾総統 秘書

1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

「日台関係」への影響は?

 候補者決定が1ヶ月以上延期されたが、このまま党内調整がつかず、世論調査の結果で候補者を選ぶことになれば、現時点では頼氏が候補者となる可能性が大であろう。

 台湾政治は日本以上に「一寸先は闇」の世界ではあるものの、頼候補という前提に立てば、それは日本にとっても非常に重要な問題だ。

 蔡総統は当初、多くの期待を持って迎えられた。それまでの国民党政権に比べても親日派というフレコミで、日台関係がいっそう良くなると、多くの日本人が期待したのだ。

 確かに尖閣諸島の領有権問題や慰安婦問題で揺れた国民党政権と比べて期待した日本人も多かっただろう。

 とはいえ、この3年間で蔡総統が日台間で結んだ実利的な取り決めの成果は乏しい。密輸防止や特許に関する協定の締結など数個に限られる。むしろ「反日」と言われた馬英九政権時代のほうが「日台関係が進展した」と評価する声を日本の外務省関係者から耳にしたこともある。

 確かに馬英九政権下で日台が結んだ協定は、長年懸案とされた投資や租税、漁業に関するものを含めて実に20項目以上。個別の項目だけを見るとバラバラだが、それらを合わせるとほぼFTA(自由貿易協定)を締結したに等しい水準だという。地理的にも経済的にも密接な日台関係において、個別の協定を「積み木のように」重ねていくことによって、国交がある国家どうしのレベルに限りなく近づけるという、外交関係者が知恵を絞った結果である。

 そして、特に日本との関係において、蔡総統の能力に大きな疑問符をつけたのが福島県および近隣5県の食品禁輸問題だった。

 福島第一原発の事故から8年。諸外国は産地証明書添付などの条件付きや、一部品目のみを禁輸とするなど解除の方向に向かっているが、台湾だけが一律に食品の禁輸措置を続けているのだ(酒類を除く)。

 台湾だけが、政府による明確な根拠の説明のないまま禁輸措置を続けていることに対し、日本側からも不満の声が漏れ聞こえてくる。確かに禁輸措置の発端となった事故の責任は日本側にあるのはもちろんだが、とはいえ、科学的に安全性が検証された食品さえ禁輸措置が解かれないことに対する不満だ。

 確かに蔡総統はリーダーシップを発揮してグイグイ引っ張っていくタイプではない。しかし、少数意見を重んじると言えば聞こえは良いが、別の見方をすれば批判を恐れるあまり決断ができない、指導力に欠ける、という指摘も多い。李登輝元総統が2016年11月に産経新聞紙上で「蔡英文は勇気がない、決断力がない」と苦言を呈したこともそれを物語っている。

 この食品禁輸措置の解除について言えば「民の声を聞く」として公聴会を開いたところ、それを野党に逆手に取られ、紛糾し収拾がつかなくなってしまった。

 あまつさえ、昨秋の統一地方選と同時に行われた公民投票では「禁輸措置を解除するか」という議題が反対多数で否決されてしまった。日本政府の関係者からは、自分で決められないから有権者に聞く、という姿勢ならばそもそも政治家は必要ないではないか、という恨み節も聞こえてくる。

 その一方で、頼氏の姿勢はどうか。

 対日関係においては、台南市長在任中は、台湾の農業に大きく貢献した日本統治時代のダム技師、八田與一の慰霊祭に毎年出席したり、市内に残る日本時代の古跡の保護や修復を積極的に進めるなど、日本との関係の近さを窺わせる。

 また、頼氏は「自分は独立派だ」と立法院の答弁で明言してしまうほど、批判を恐れず自分の意見を鮮明にするタイプであり、蔡総統のように調和を重視し、少数意見にまで目配りするタイプとは異なる。

 もちろん、そうした姿勢が、国家の指導者として吉と出るか凶と出るかはまだ未知数ではある。ただ、頼氏の態度を明確にする姿勢が、蔡総統よりも頼氏に好感を持つ根拠とする有権者が多いこともまた確かで、民進党の候補者選びはますます難航することとなり予断を許さない状況だ。

 とはいえ、前述のように、民進党の候補者選定のプロセスは、最終的には世論調査の結果だけで決定する、至極民主的なシステムである。

 今回の、明確な理由が説明されない非合理な延期は、民進党自らがその民主的なシステムを葬り去ってしまった自殺と言ったら過言であろうか。

 今からでも遅くはない。民進党は、公正な候補者選びを行うためにも、党利党略といった、自らの利益にばかり目をとらわれず、真の意味で「民主主義の体現者」としての矜持を発揮してほしい。

連載:日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

早川友久(李登輝 元台湾総統 秘書)
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

  
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