2024年4月21日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年11月28日

 日本政府は既に首都の「デリー・メトロ」(地下鉄)建設への経済協力で成果を挙げているほか、インド政府と協力して、ニューデリーとムンバイの間に貨物鉄道、工業団地、港湾を建設する「デリー・ムンバイ産業大動脈」(DMIC)の構想を推進してきた。インドは今、日本の技術と資金の導入に大きな期待をかけている。

 今回、現地の日印関係筋から耳よりの情報を得た。日本政府がインドに対して新幹線技術の本格的な売り込みを始めるというのだ。国土交通省の担当者のほか、JR東日本やJR東海の技術者が11月中にニューデリーを訪問し、トリベディ鉄道相らに技術面の特徴を説明。来年1月にはニューデリーで売り込みのためのセミナーも開く予定だ。

 私が台湾駐在中の07年1月、日本が車両などを輸出した「台湾新幹線」が開業した。日欧の技術が混在したため当初は安全性に懸念の声も出たが、今はすっかり台湾社会に溶け込み、日台友好の象徴となっている。ぜひ、インドへの新幹線輸出も成功させ、日本とインドの友好のシンボルにしてほしいものだ。

 日本の貿易相手国としては、中国が断然トップだが、昨年来、中国が独占的に供給してきたレアアース(希土類)の輸出を制限したため、価格が高騰した。日本は貿易相手や投資先をインドや東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国などに多元化し、リスクを分散することが望ましい。

民主主義のコスト

 「わが国は世界最大の民主国家。みなさん、自由に取材して、インドの真の姿を見て帰って下さい」。インド外務省のビジュヌ・パラカシュ報道官は、インドが共産党独裁の中国とは違う「民主化され、開かれた国家」であることをアピールした。今回も直接取材に加えて、地元英字紙を読むことで対インド理解が深まった。民主主義体制の下で「報道の自由」が確立されているからだと思った。

 しかし、民主主義にはコストもかかり、発展途上国としては「開発独裁」の方が有利な面もある。インドの人々は権利意識が強く、デモや集会、労働争議の権利を有するため、土地収用(用地確保)の補償金をめぐる紛争、賃金や労働条件をめぐる労使紛争が頻発している(中国でも強制的な土地収用への抗議や労働者の賃上げ要求ストは多発しているが、当局は権力で抑え込むことも多く、官製メディアはあまり報じない)。

日本式労務管理に反発した激しいスト

 乗用車のシェアは、安価な小型車が人気のスズキが約4割を占めて首位。韓国・現代、インド・タタと続く。後発のトヨタもインド向けに開発した小型車を市場に投入して上位3社の後を追う。

 ところがニューデリー近郊のスズキ子会社の第2工場では、今年6月から10月まで激しいストライキが続き、生産と売上高が激減してしまった。労働者は第1工場の組合支部ではなく、独立した労組設立を求めていた。

 労働運動の支援者でジャーナリストのサティアム・バルマ氏(45)によれば、争議の背景には①厳しい日本式管理②正社員と契約社員の賃金格差③会社寄りの既存組合への根強い反発があった。

 「KAIZEN(改善)やJIRITUKA(自立化)は既に現地語」(日系企業関係者)と言われるほど、日本式管理はインドに入り込んでいる。だが、労働者に厳しい規律を求め、細かな工夫を積み重ねて生産効率を追求する日本式の経営・労務管理はインドの労働者にはあまり評判がよくない。

 バルマ氏は「インド人は伝統的にのんびり屋で時間にもルーズだが、日系企業では2、3分の遅刻で手当てを減額される。第2工場の労働者は若く、権利意識も強い。その分、日本式管理への反発も大きいのだ」と解説した。争議は地元政府の調停で一応収束したが、労働者の要求は認められず、争議再燃の恐れもありそうだという。


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