Wedge創刊30周年記念インタビュー・新時代に挑む30人

2019年5月1日

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本記事掲載のWedge5月号『創刊30周年記念インタビュー「新時代に挑む30人」』では、「ホンダジェット」の生みの親・藤野道格氏ラグビー日本代表・リーチ・マイケル氏USJ復活の立役者でマーケターの森岡毅氏大峯千日回峰行を満行した大阿闍梨・塩沼亮潤氏など様々な分野で令和の時代を牽引していく30人にインタビューを行いました。

ITの進化で音楽の在り方も激変している。その中で、新たなコンテンツを生むために必要な価値観とは何か。そしてそれを追い求める重圧にどう向き合えば良いかを聞いた。

ヒャダイン:本名は前山田健一。1980年大阪府生まれ。京都大学総合人間学部卒業後、音楽作家としての活動を開始し、ニコニコ動画でブレイク。郷ひろみ、ももいろクローバーZ、私立恵比寿中学など様々なアーティストへの楽曲提供、プロデュースを行っている。( 写真・さとうわたる)

 ITの進展は音楽界にも大きな変化をもたらし、音楽クリエイターの仕事は変わった。例えば、パソコンを使い机上で音楽を制作するDTM(デスクトップミュージック)が浸透し、子供でもプロと同じ音で楽曲制作ができるようになった。また、YouTubeや「17 Live」などの動画配信アプリを使えば、すぐに世界にそれを発表することが可能になった。一方、鑑賞の方法も変わった。「スポティファイ」などサブスクリプション型(定額制で聴き放題)のサービスが急速に普及したことで、多くの音楽のフル尺(曲の全て)を聴けることが当たり前の時代になった。

 世間には「楽器も弾(ひ)けない素人が作った音楽は本物じゃない」、「音楽とはCDを買ってじっくり聴きこむもの」といったことを言う人たちもいる。

 しかし、それでは音楽への触れ方が変わった世の中から求められるコンテンツを生み出すことはできない。業界は違うが、配車サービスを提供する米Uberや民泊仲介を行うAirbnbの出現によってディスラプト(破壊)される人たちと同じ境遇に陥ってしまう。

 だから私は、コンテンツを制作する上で、多様性(ダイバーシティ)を大切にしている。もちろん聖人君子的に多様性が大切、と言うつもりはない。私が「いろんな価値観の人がいる」と捉えるようになったのは、小学校でいじめられたとき、自分を客観視して、気持ちが救われた経験が大きい。

 ここで重要なのが、人間が多様性を取り込むということは、これまで自分が「不要」だと思っていた価値観を受け入れるということだ。つまり、自己否定することになるため、できることならしたくないという感情が働く。しかし、自分が理解できないこと、それ自体を否定すれば、それは老害のはじまりと言わざるを得ない。

 まして、年を取るごとに自分自身の「メモリー」はどんどんうまっていく。時代の変化や新しい発想を常に自分の中に取り込みたいと思うならば、空き容量を増やす、つまり古くなった知識を捨て、整理することを心がける必要がある。

 一方で、自己否定を絶え間なく行い、記憶の整理をしながら多様性を保つことは、大変な労力や気力を必要とする。また、働き方改革や経済が低成長のせいか、頑張っている人たちは目の前の成果に向き合いすぎて疲れ果てているように見える。ITの進化が早すぎて、それについていくことにも辛(つら)さを感じているのではないだろうか。

 ヒットを狙うのはどんな商品、サービスでも難しい。音楽は特にだが、最新の性能だから、多機能だから、「一番」が詰まっているから、だけでは、多くの人の感情を動かすことできない。私自身、「いい曲なのに売れなかったなぁ」という曲はたくさんある。ウィキペディアに載っている私の提供曲を見てほしい。実際、8割方売れていない(笑)。

 ましてITが進んだことで、情報が容易に取れるようになり、人々には「万能感」が植え付けられている。そのため、本質的ではない「あざとさ」や「フェイク」でヒットを狙えばすぐにバレる。

 多くの人が成果を出したいと思っているのは分かるが、成果は一人で、簡単に、出せるものではない。「運」によるところもある。多様性や成果を追い求めすぎて自分を追い詰めないためにも「ポジティブなプランB」を常に持っておくことが大切だ。先日、人気アイドルグループ「ももいろクローバーZ」のメンバーの百田夏菜子さんに「ヒャダインさんってインチキだよね」と言われた。最高の誉(ほ)め言葉だと思った。まさに自分自身、プランBに切り替えてこうした辛さを乗り切ってきたと思っている。

 プロデューサーや上司にあたる人は、その人が進むことができる道の先に補助線をひいてあげることが大切だ。アーティストのディレクションをしていると、肩に力が入りすぎている人ほど、求められているものと本人が出したいものが違ったりする。まじめな人ほど、自分が出すべき付加価値を見誤っていることも多い。

 今後AI(人工知能)が人間の知能を超えるシンギュラリティもあるかもしれない。歌手や作曲家の、人生のストーリーや生体情報を用いて曲ができるかもしれない。そうした変化も否定することなく楽しんで向き合っていくことで、音楽の新たな進化がもたらされると思っている。(談)

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