2024年4月20日(土)

WEDGE REPORT

2019年5月3日

■サッカーだけで生活できる日本に集まる注目

 近年、イニエスタやフェルナンド・トーレスをはじめとするスペインから日本に来るサッカー選手や指導者が増えている。その結果、スペイン国内のサッカー関係者の間でも日本への関心は強まっており、実際私も知り合いのスペイン人現役選手や指導者から「俺も日本に連れて行ってくれ」と何度も言われたことがある。

 ここには「日本ではサッカーだけで生活ができる」というイメージが背景に存在する。事実、額の大きさはともあれ、日本では少年サッカークラブやスクールでも指導者として生活している人が少なくない。一般的な企業で勤める程の稼ぎを得ることは難しいかもしれないが、少なくとも「プロサッカー指導者」として生活している。統計などで具体的な数字がないものの、街の少年サッカークラブの指導者として生計を立てている人がこれほどいる国は他に聞いたことがない。世界中を見ても非常に稀な環境なのだ。

 当然このことはスペイン人も知っており、もちろん日本への文化的な関心や別の環境での挑戦に興味がある指導者もいるだろうが、言ってしまえば「サッカーだけで生活がしたい」「日本に行けばサッカーだけで生活できる」というのが、現在日本への関心が強まっている主な理由だ。

 スペインではサッカー指導者としてのフルタイム契約というものがほぼ存在しない。それは当然だ。指導者といっても育成年代の選手たちは日中学校に通っており、実際に指導者がグラウンドで仕事をする時間は、夕方以降に行う担当チームの練習約1時間半と、週末に行うリーグ戦1試合のみ。練習は多くても週3日ほど。ここでは週に40時間以上の労働時間がなければフルタイム契約を結ぶことができず、サッカー指導者がグラウンドに立つ時間だけでそれは不可能だ。

 だが監督の仕事はグラウンド上だけなのかというと、決してそうではない。選手のコンディション管理やトレーニングプランとスケジュールの作成、対戦相手の視察や分析、自チームの試合分析もあれば、自チームの参考にするためにプロの試合を分析したり最新の戦術などを研究したりすることもある。その上で戦術、技術、フィジカル、メンタルの観点から次の試合に向けた1週間の練習内容を考える。プロクラブのように十分なスタッフを抱えることができる余裕のあるクラブは別として、スペインではこれらの業務を監督1人でこなす。とてもグラウンド内だけで済む仕事ではない。

 これらは何かクラブに直接利益を生み出す仕事なのかといえばそうではないが、指導者としては絶対に必要な仕事だ。私が通っていたコーチングスクールの講師で、ユース1部リーグの監督もしているスペイン人がいた。彼はパソコンに常に50試合近くの分析用の試合映像があり、さらに膨大な量の自チームの練習と試合のプランニング用の資料があった。一体いつこれだけの仕事をしているのだろうか?と疑問に思うほどに。


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