チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年12月7日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

時事通信社外信部記者

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から2度目の北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了。現地での中国取材は10年に及ぶ。16年5月に帰国し、現在外信部記者。近著に『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)、著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

 中国甘粛省の農村地域で発生した幼稚園「校車」(スクールバス)事故で園児19人を含めて21人が死亡した。定員9人のマイクロバスの座席を取り外し、64人の園児らがすし詰めで乗せられており、「事故は決して偶然起こったものではなかった」(中国紙・新京報)。中国メディアはその背景に何があるか、突っ込んだ調査報道と論評を展開しているが、この事件から何が見えてくるのだろうか。

 「民衆より国家」「農村より都市」「子供より大人」――。そこから浮かび上がるのは、常に社会的弱者がないがしろにされる中国国家体制の限界ではないだろうか。

園児737人に対して
送迎バスはたったの4台

 事故が発生したのは甘粛省正寧県。11月16日朝、石炭を運んでいた大型トラックと、「小博士幼稚園」の送迎バスが衝突した。死亡した19人のほか、44人の園児が負傷した。

 バスは定員オーバーに加え、霧で視界が悪いにもかかわらず、制限速度60キロのところを時速80キロで走行していたという。

 中国紙・京華時報によると、小博士幼稚園は、正寧県楡林子鎮で唯一の幼稚園で、園児は737人もいるにかかわらず、送迎バスはわずか4台しかなかった。実に平均して185人に1台しかバスが割り当てられない計算である。

 スクールバスだけではない。正寧県で幼稚園の園児数は計5452人に上ったが、保育士の数は232人しかおらず、保育士1人で園児23人の世話をする状態だったという(中国週刊紙・経済観察報)。

なけなしの金で幼稚園に通わせる親たち

 しかも幼稚園に通える園児は、全体の1割にすぎないというのだ。新京報によると、小博士幼稚園では今年、毎学期(約4カ月)の学雑費・保育費などは260元(1元=約12円)から300元に値上がりし、このほか生活費として200元、バスでの送迎代として50元の支払いを求めている。これらを払える余裕のある家庭は少ないのだ。

 今回死傷した園児の多くは、両親が都会に出稼ぎに行き、祖父母と一緒に暮らす「留守児童」と言われる子供だ。親たちは出稼ぎしてまでも、子供には教育を受けさせたいとの願望を持っており、なけなしの金で幼稚園に通わせているのだ。

 一方、幼稚園側にしても、月収が1000元しかないような貧困家庭からこれ以上負担を強いるわけにもいかないし、政府からの援助が乏しい中、新たなスクールバスを購入する余裕がないのが現実だった。

 中国の司法、公安を統括する共産党政法委員会の機関紙・法制日報(11月21日付)は事故の背景として「西部の発展していない地域では財政に制限があり、幼児教育への資金投入が不足している。幼稚園経営の経費を集めるのも困難で、低コスト経営にならざるを得ない」と指摘している。

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