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2019年5月1日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞元論説委員長

産經新聞元論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 2019年版外交青書から「北方4島は日本に帰属する」という表現が消えた。政府は従来の方針に変化はないと説明しているが、言葉とは裏腹に、歯舞、色丹の2島返還で決着させるとう思惑が透けて見える。2島すら返す気をもたないロシアに、なぜこうまで譲歩を繰り返すのか。無駄、ナンセンスな方針変換は、4島はもとより2島の返還すら困難にする。新しい御代を迎えたいまこそ、不明朗な妥協策を精算、公正、確固たる解決策に転じる好機だろう。

(Belus/gettyimages)

「領土」の範囲も曖昧

 2019年版外交青書「ロシア」の章、「北方領土と平和条約交渉」の項目は、お題目から始まる。

 「両国首脳は、戦後70年以上、日露間で平和条約が締結されていない状態は異常であるとの認識を共有……」

 昨2018年版の同じ項目では冒頭に、「北方領土問題は日露間の最大の懸案であり、北方4島は日本に帰属する」と明確に記されていたが、そっくり削除された。

 日ソ共同宣言(1956年)、国後、択捉、歯舞、色丹4島の名を明記した東京宣言(1993年)、それを敷衍したイルクーツク声明(2001年)への言及がなくなり、「北方4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」と昨年はっきり謳われていたくだりも、ことごとくカットされた。

 「地域における日露関係」の項では、「北方4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結すべく」という昨年の強い決意が、「領土問題を解決して平和条約……」に変わった。「領土」がどこをさすのか具体性を欠く記述になっている。

 一方で19年版では、「日ソ共同宣言」を基礎に交渉を開始することで合意した2018年11月の安倍首相とプーチン大統領との会談(シンガポール)に多くの紙幅が費やされた。

 シンガポール合意が歯舞、色丹の返還に、国後、択捉での共同経済活動を組み合わせた「2島+アルファ」による決着をめざすものであることは、安倍首相らも事実上認めている。今回の記述変更は、国後、択捉断念という方針が、外交青書という公的文書で確認されたことを意味する。

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