2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2009年10月20日

 考えうる技術の積み上げという観点から検討されたのが上の表だ。民生分野で、太陽光発電、省エネ住宅、エコカーの導入誘導策を深掘り(それぞれ新規需要の7割、8割、5割の導入)し、産業分野でも省エネ技術を徹底的に普及させたのが選択肢3だ。社会全体の投資額は52兆円にのぼる。

 選択肢6は選択肢3に比べてCO2削減量18%もの上乗せとなる。もはや誘導策では実現できず、既存設備の買い替えなど、財産権にも踏み込む強制措置が必要となる。かかるコストは190兆円と推計された。

 それはさすがに難しいということか、発表資料には、「仮に選択肢3からの深掘り分(▲18%)を炭素税や排出権取引といった経済メカニズムで行えばどうなるか」が試算されている。

 限界削減費用と同等の炭素価格(約9万円)をつければ確かに理論上削減は可能だが、その場合、生産活動は11%落ち込むという。雇用問題の深刻化は避けられない。

 これらの分析を否定するには、この10年間に、凄まじい技術革新と凄まじい規模の産業構造変化が起きると仮定するしかない。07年度の鉄鋼、セメント、化学業界の出荷額は合計50兆円超に上る。それに比して、太陽光発電は、現状の価格で現状の55倍導入(選択肢6)されたとしても20兆円。単年度でみれば約2兆円にすぎない。要は比較にならないのだ。この差を逆転する産業構造の変化を期待するのは、国家戦略と言えるだろうか。

日本だけ持続的成長を放棄

 つまるところ、鳩山目標は「経済成長を放棄した」レベルに突入している。省エネが進んだ日本で排出量に厳しい削減目標を課すことはどうしても生産量の上限を決めることにつながってしまう。人類の未来のために環境問題に率先して取り組むという姿勢は否定しない。しかし、問題は、その姿勢に他国がついてこないことだ。

 国連の地球温暖化問題の憲法にあたる「気候変動に関する枠組条約」では、有名な「共通だが差異のある責任」だけでなく、日本ではあまり言及されない重要な権利「持続可能な開発を促進する権利」が記載されている。環境問題に対処するためには持続可能な成長が必要であり、その権利は締結国に保障されているのである。

海外クレジットの購入でOKか?

 「いやいや先に挙げたような経済へのダメージはすべて国内対策(真水)でやるとしているから」という批判があるだろう。確かに、海外クレジットなら国内対策より安くつくからだ。

 鳩山演説で示された「主要国の参加による意欲的な合意が得られなかったから、日本の目標は破棄する」という大胆なオプションは取らないとすれば、結論は一つしかない。海外のクレジット(排出権)購入だ。実際、民主党の環境問題のキーマン、福山哲郎外務副大臣は、「各省と協議の上、たとえば真水が25%の場合、20%の場合、15%の場合のコストを出す。最終的な真水は国際交渉次第だ」(10月4日付毎日新聞)と語っている。

 ただその場合も、真水が麻生前政権の示した「90年比▲8%」を下回ることは想像しにくい。仮に真水で▲8%、クレジットで▲17%とすれば、いったい費用はいくらなのか。

 日本の90年の排出量(12.6億㌧)の17%は約2億トン。1トンのCO2価格が仮に1万円ならば2兆円の国富が毎年流出することとなる。これは基礎年金の国庫負担引き上げ分に必要な財源に匹敵し、消費税で賄うなら1%分にあたる。国際支援は立派だが、その負担は「国民の負担増は避けられません」と麻生前首相が語った選択肢3レベルの経済へのダメージに上乗せされることを忘れてはならない。

鳩山政権中期目標達成はいかに困難か
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