2024年4月17日(水)

赤坂英一の野球丸

2019年5月8日

国籍条項は必要か

 ムンフバト氏は1968年、メキシコオリンピックに男子レスリングのモンゴル代表として出場、フリースタイルで銀メダルを獲得している。最後はポイント差による僅差の敗戦で金メダルに手が届かなかった。だから、自分の雪辱のためにも息子の白鵬にレスリングをしてもらい、ぜひオリンピックで金メダルを取ってほしい、と考えていたらしい。そんな父親が白鵬の国籍変更を認めたのは、昨年の春に亡くなる直前のことだったという。

 そうした経緯が明らかになるにつれ、日本国籍を取得しなければ親方になれないという相撲協会の〝国籍条項〟こそが時代遅れだ、と指摘するメディアも増えてきた。とりわけ朝日新聞は白鵬と宮城野親方が処分を受けた直後、4月26日付朝刊の社説で「不当な国籍条項を見直せ」と手厳しく批判している。

 〈親方になるため年寄名跡の取得に関しては、改革の必要性がかねて唱えられながら、実態は依然不透明だ。数億円で取引され不祥事の背景にもなったが、既得権を守りたい勢力の抵抗が強いといわれる。

 国籍条項を外せないのも、現役時代の番付が物を言い、資産形成にもつながる今の仕組みでは、親方を外国出身者が占めてしまう。そんな不安があるからだとも聞く。あきれる話だ。〉

 果たして、そうした論調に相撲協会が動かされるだろうか。2007年に時津風部屋で発生した力士暴行死事件、2011年に発覚した八百長問題の際は、相撲協会理事長を元力士ではなく外部の有識者に任せるべきだ、という議論が巻き起こった。現に、プロ野球のコミッショナーなどは政財官界で実績のある人物が務めているのだから、と。

 その結果はご存じの通りで、コンプライアンス委員会などに外部の人材を登用するようにはなっているものの、いまだに理事長の座は元力士に占められている。世論やマスコミによる外圧が強まれば強まるほど、独自の内規や因習に執着する傾向が相撲協会にはあるようだ。白鵬の三本締めに対する処分、一代年寄を廃止すべきという声も、そうした体質から生まれているものと考えればわかりやすい。

 しかし、暴行死事件や八百長問題の最中、いつも世間やマスコミの矢面に立ち、黙々と土俵を務め、相撲の信頼回復に務めてきたのが白鵬だった。この大横綱が一代年寄になれないなどという事態だけはあってはならないと考える。彼と父親との葛藤を垣間見た私としては、将来に向けて発展性のある解決策を模索してほしいと願わないではいられない。容易に結論の出せる問題でないことは、重々承知の上で。

  
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