2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2009年11月20日

EUや米国の排出権取引の実態

 EU−ETSの第2期(08~12年)において、割り当てられた排出枠は決して厳しくない。エネルギー効率が悪く削減余地が大きい東欧諸国は、甘めの割り当てを受けているが、それでもポーランドはEU裁判所に訴え、9月に割り当て数量を7.2%増やす判決を受けるなど、配分をめぐる争いが表面化している。20年に向けてオークション方式を拡大するとされているが、現実に導入されたのは、独占的に消費者にコスト移転できる電力業界だけであり、国際競争の激しい業界には例外的措置、つまり従前からの無償配分が続けられる予定だ。

 米国では、排出権取引制度を導入する「気候変動法案」が、6月に下院を通過、現在は上院で審議中となっている。下院段階では、初期配分をめぐる各業界からの壮絶なロビーイングが発生した。排出権価格の上昇を抑えるための大量の海外クレジットの導入、価格上限措置、農業や森林吸収分をめぐる議論など、市場を歪める様々な方策が練られている。それでも欧米が排出権取引制度に固執するのは、別の目的があると考えたほうがいい。それは、前頁のコラムにあるように、エネルギー安全保障戦略であり、金融業界の強化であり、「EU−ETS(EU域内排出権取引制度)を“世界標準”とすることで、IFRS(国際会計基準)のように、国際的な社会・経済の枠組み・ルールをEU有利に整備しようとする意図」(前出の北村氏)なのだ。

海外クレジットの大きな問題

 排出権取引制度を導入しないとなれば、日本の取るべき戦略は、省エネ規制のような直接規制と、技術導入や開発に対する補助金施策を組み合わせ、不足する分については海外クレジットを購入するという方策しかない。

 しかし海外クレジットも大きな問題がある。「削減義務が課されない中国に依存したクレジット調達を続ければ、国民の税金が中国の経済発展のために使われ、一工場あたりの排出量は減少しても、中国の温室効果ガスの総量は結局増加する」(北村氏)。

 別名は〝China dream mechanism〟だというCDMには根本的な問題がある。「対策がなかった場合」という仮定のベースラインを設定し、そこからの削減量を測定するわけだが、この「仮定」は恣意的になる可能性がある。だからプロジェクトの「追加性」を国連が厳しく審査しているが、実態はどうか。たとえば日本は中国の水力、風力発電事業から多くのクレジットを取得しているが、電力が極端に不足している中国で、本当にそのプロジェクトがなければその発電所が設置されることはなかったのかどうかは判別しようがない。

世界のCO2排出量推移~課題は2020年以降~
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 せっかく国費を投入するならば、せめて新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がウクライナと締結したグリーン投資スキーム(GIS)のような、日本の技術導入と結びついた形をとるべきだろう。

 右のグラフを見ていただきたい。「2050年半減」という世界の共通目標のためには、20年以降の削減がどれだけ必要かが示されている。これまでの技術の延長線上では考えられないような抜本的な技術イノベーションが生み出されなければ環境問題は本質的に解決しないのだ。しかもこれだけ議論してきた日本の中期目標が、検討委員会の示した6つの選択肢のどれであったとしても、世界の20年の排出量にはほとんど影響を与えないのである。

 本来なら、省エネ技術をリードする日本は、20年以降に求められる技術革新こそ貢献すべき分野だったのではないだろうか。それなのに20年までの中期目標の深掘りで、国富を失ってしまうとすれば、フルマラソンのたった10キロ地点で、オーバーペースで倒れこんでしまうようなものだ。

◆「WEDGE」2009年11月号

 

 
 

 

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