世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年5月15日

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 4月17日、インドネシアの大統領選挙が行われた。現職のジョコ・ウィドドと軍出身のプラボウォ・スビアントの一騎打ちとなり、これは、前回2014年と同じ構図だ。国民議会選挙、地方議会選挙も全国で同時に行われ、「巨大な選挙の日」となった。開票作業の過酷さから、数百人もの過労死者を出し問題となっているほどである。

(Booblgum/timurock/Sylverarts/iStock

 選挙結果は5月24日に最終結果が公式発表される予定だが、各種調査などによれば、ジョコが50%台半ばでプラボウォが40%台と、2桁の差でジョコがリードしており、ジョコの再選は確実である。ただ、事前の世論調査では20%の差をつけていたので、予想よりは勝ち幅が小さかった。浮動票、イスラム保守層の票がプラボウォに流れたようである。国民議会選挙は、ジョコが所属する闘争民主党が20%前後の得票率で1位、プラボウォ率いるグリンドラ党が10数%の得票率で続いている。

 ジョコは、開発を彼の政策の焦点として来た。開発を通じて貧困の問題を解決することを目指して来た。そのために、すべて順調に運んでいる訳ではないが、道路、鉄道、空港、港湾、発電所など各種インフラ・プロジェクトを推進して来た。彼は医療保険制度を立ち上げた。これらの施策の恩恵は国民が実感しているようである。経済成長は約束した7%には届いていないが、着実に5%は達成し、今や購買力平価で見れば、経済の規模はブラジルや英国よりも大きく、一人当たりGDPはインドの2倍だという。貧困の率は下がって来ておりジョコは喜んでいるという。

 他方で、ジョコは勝たんがために、好ましくない手法に訴え、本来譲るべきでないことを譲り、妥協を敢えて成し、そのために民主主義を傷付け、今後の政権運営の手を縛りかねないことまでした、との批判がある。ジョコは、反ジョコの集会を当局が妨害するのを見て見ぬ振りをしていたと言われる。1990年代の諸々の人権侵害事件に陸軍あるいは国軍の最高司令官として関わったとされるウィラントのような軍人を閣僚に起用していることにも批判の目が向けられている。

 選挙前の4月11日付けのエコノミスト誌の記事‘Jokowi, the better candidate, is leading in Indonesia’s election’は、ジョコが勝つためにイスラムの過激な分子におもねる言動をしていると疑い、そういう「ジョコの弱さ」を最も問題視している。恐らく、欧米の基準からすれば、ジョコの言動は危なっかしく見えるであろう。副大統領候補に保守的な宗教指導者を選んだのは如何にも奇異である。開発を政策の軸に据える改革指向の指導者であれば、当然、リベラルな価値を重視する世俗的な人物を想像したくなる。しかし、88%がイスラム教徒の国で、彼等を味方に取り込まねば選挙は戦えないとジョコが考えるのは無理もない。

 他方、対抗馬のプラボウォについていえば、そもそも彼は2014年に続く再度の出馬に左程の熱意は示さず、彼の政党であるグリンドラ党にせがまれて出馬に踏み切ったらしく、彼の選挙戦は時に身が入らず焦点が定まらなかったようである。むしろ、彼の選挙戦の目的は、彼の政党であるグリンドラ党の後押しにあるとも見られていた。上述の通り、グリンドラ党は、初めて闘争民主党に次ぐ第二党になることが確実であるということで、プラボウォは成功していると言える。

 プラボウォ陣営の選挙戦を支えたのは、資金の面でも、活力の面でも、副大統領候補のサンディアガ(実業家で前ジャカルタ州副知事、グリンドラ党に所属)である。彼は若いイスラムのエネルギッシュな指導者というイメージの売り込みに努め、全国を飛び回っている。実業家といっても中国系の非イスラムの財閥とは著しい対象を成す。イスラム保守層にアピールしたと思われる。どうやら、彼には長期的な政治戦略があるようである。彼は次世代の政治指導者として振舞い、2024年の次の大統領選挙を見据えて(ジョコには制度上3選はない)良好なスタートを切ったということらしい。とすると、サンディアガも今回の選挙の「勝者」と言ってよいのかもしれない。                                    

  
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