2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2011年12月13日

 次に事業者が設定する自主基準について検証しよう。自主基準には(1)事故前の規制値(370Bq/kg)(2)暫定規制値の5~10分の1程度値(ベラルーシやウクライナの基準の採用含む)(3)検出限界を超えて検出された物は販売しない(実質0Bq/kg) などの段階がみられる。しかし、採用している基準値が厳しい事業者から購入すれば、より安全な食品が購入できるとは限らない。なぜなら、先にも述べた通り、現在では一部の食材を除き多くの食品からは放射性物質は検出されていないからだ。

 実際に自主基準を設定している事業者の方に話を聞く機会があったが、流通している食品のレベルから自社基準を引き下げても問題がなく、顧客からの求めも強かったため導入に踏み切ったということだった。この話からもわかるように、事業者が自主基準を設定可能なのは、流通している食材がほとんど汚染されていないからであるということは理解しておくべきだろう。

企業の独自対策が「エスカレート」する背景

 それでは、微量でも検出された場合には販売しないという施策はどうだろうか? 例えば大手流通のイオンは検出限界を超えて放射性物質が検出された場合は販売を見合わせることを検討していると発表した(http://www.aeon.jp/information/radioactivity/pdf/news111108.pdf)。

 これも、実際に販売見合わせになるケースはごく一部にとどまるのだろう。しかし、本当にゼロまでアピールする必要があるのだろうか? この施策によって消費者の放射性物質摂取リスクが大きく下がるというのであれば実施する意義もあるかもしれない。しかし、数Bq/kg程度の汚染レベルであれば、内部被曝の影響はほぼゼロと言えるだろう。それを市場から排除することは、そのコストや手間を考えたときに、優先すべきと言えるのだろうか? 仮に流通している食品に対する不安を除くためならば、別の施策もあるのではないだろうか。

 こうした過剰ともいえる放射性物質への取り組みが行われる背景にはマスコミの影響も大きいようだ。テレビや新聞では、これまでに事業者の対策を映像で伝えてきた。その際に実効性などには言及せず、対策をとること自体を評価するような取り上げ方をしてきた。さらに雑誌では各企業に取材を行い、対応状況の比較記事も掲載された(例えば、週刊朝日10月28日号では各事業者へアンケートを実施し、その結果を一覧にして公開)。こうした記事を見て、他社に比べて取り組みが劣っていると思われれば売上に影響を与える可能性もあるため、より「進んだ」対策が求められる。こうして放射性物質対策はチキンレースのような様相を見せる。

 また、そうした「おもいきった判断」は往々にしてトップダウンであると聞く。そのような場合には、品質管理の現場からみると過剰であったり、効果が薄いと思われる場合もあるが、現場とのすり合わせもなく、頭上を飛び越えて決定・発表されてしまいがちだ。イオンの施策もこうしたケースの一つだと思われるがどうだろうか?

中小食品企業の苦悩

 放射性物質対策強化には別の懸念もある。アンケート記事に掲載されるのは多くの消費者も名前を知っているような大手企業がほとんどだ。しかし、食品業界には中小企業も多く、大手企業もそれらの企業から原材料などの納入を受けている。大手企業が自社の責任の範囲で検査等を実施するのはいいかもしれない。しかし、関係企業に対して検査や安全証明を要求するような事態が生じるとしたらどうだろうか?


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