WEDGE REPORT

2019年5月15日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

なぜ米国は軍事介入できないのか?

 米国は、わざわざベネズエラのために血を流すことはないだろう。中南米諸国の反対もあるし、勝利してもその後の起こるであろう混乱をうまく治めることは難しい。イラクで懲り懲りのはずだ。

 さらに、民兵とは戦えないだろう。ベネズエラにはふたつの民兵がある。ひとつはコレクティボ(Colectivo スペイン語で集団の意味)。これは犯罪集団でオートバイに乗って反対派や国民を殺す。彼らが犠牲になるのは構わない。国民の快哉を浴びるだろう。

 けれども、ミリティア(Militia 民兵の意味)となるとそうはいかない。もともとチャべスが作った私兵だが、現在は国軍の下部組織とされている。近所のおじさんやおばさんも国営企業の職員の一部も参加している。彼らは現政権が危ないとなると招集され駆け付ける。マドゥロによると現在は160万人も全国にいるという。アメリカの正規軍がそんな人々と戦って殺すことができるか!?

なぜこんな国が出来たか?

 信頼できる消息筋によるとカストロはチャべスにこう助言したのである。

 「犯罪者は取り締まるな、必ず君の味方になる」

 「余分な金は燃やせ(筆者解説:私企業は接収し、政府の支配下に置き、国民を貧乏にし配給で生きる下僕にせよ、という意味)」

 チャべスは最初それに従ったが途中で疑念を抱いたようだ。だがキューバ政府の傀儡であるマドゥロはそれを実行し続けている。すなわち、犯罪立国し、国民を貧しくするのが目的なのだから、現在のベネズエラはほぼ計画とおりに進んでいる。

 参考:『国家元首の言葉は重いー犯罪立国の謎 その2』

 もちろん国民の中にはチャべス派と言われる現政権を支持する人々がいる。私の知人でチャべス派だったのは次の4人だ。

  • 雇った運転手。だが彼は早々チャべスは気が狂っているといって離反した
  • チリのアジェンデ政権崩壊後にベネズエラに逃げたチリ人
  • 雇った掃除のお姉さん。彼女は私がチャべス派でないことを知って驚いていた。そこで次のような事実を言ったが、きょとんとしていた。「なぜ、世界一原油が埋蔵されている国で、君にきちんとした仕事もなく、薬もトイレットペーパーも食べ物もないのか、よく考えてみなよ」
  • お世話になった港の責任者。彼は裕福な知識人で反米左翼であった。

 すなわち現政権のチャべス派とは次のような人々である。

  • 政府関係者、政権周辺の富裕層
  • コカインカルテル他の犯罪集団
  • 操られやすい無教養層
  • 裕福な左翼・反米知識層

決起に隠されたもの

 上記を踏まえると、グアイド大統領が決起した4月29日前後の出来事は、新たな相貌を伴って浮き上がって来るはずである。以下は内外のベネズエラの友人、ソーシャルメディア、既存メディアから、私が事実に近いと思われるものをピックアップしている。

4月29日 この前後にG2の情報網が5月1日に叛旗の計画があるのを察知した。

4月30日 ベネズエラの長い一日。計画が発覚されたことを知り、グアイド大統領は決起を一日早め、早朝に空軍の反乱者とともに空軍基地へと向かう。自宅軟禁状態にあった反政府運動の先駆者レオポルド・ロペスも解放され、同行する。

 彼を解放したのは、昨年の10月からSEBINの長官を務めていたマヌエル・クリストファー・フィゲラ(Manuel Cristopher Figuera)将軍である。すぐにその職を辞任したか、解雇された。私は逮捕されたものと思っていたが、元長官は密かに出国し、どこかに潜んでいる模様である。

 夕刻そのフィゲラ将軍がベネズエラ国民向けに長い声明を出した。趣旨は以下。

  • 祖国がこれほど崩壊してしまったのをアメリカ合衆国のせいにするのは、まったく無責任である。
  • 私のことを裏切り者というだろうが、私が仕えるのは祖国と憲法である。
  • 多くの高官は自分のためだけにマドゥロに取りいっている。
  • これほど豊かな国が飢餓と欠乏の中にある。我々の子供たちのためにもこの国は変わらねばならない。
  • 「チャべス万歳!」などという空虚な言葉はもう使わない。言うならば、「ただ祖国のために!」

 ほぼ同時刻、カラカスの運輸省にて民衆に銃を向けていたコレクティーボと治安警官が銃撃戦となった。治安警官はその後、警察内部で銃を取り上げられ、民衆を救おうとした罪に問われている。

 防衛大臣のパドリーノ・ロペスの従兄妹、祖父、祖母たちが同大臣に呼びかけるビデオを公開した。

 「国民を虐殺する側に立つのは止めて、国民と憲法の側に立つべきだ。犯罪と暴力を助長する暴君となるか、真人間の道に戻るか、それはあなた次第だ」

 夜、マドゥロの妻、シリア・フローレス(Cilia Flores)がロシアの差し向けた飛行機に乗り、ドミニカ共和国へと逃亡した。同国の保養地プンタ・カナのCap Canaには、マドゥロ夫妻の豪邸がある。彼女は政治家で、新たな憲法起草のための一委員でもある。

5月1日 軍の反乱はほんの一部に留まり、決起は失敗したことが判明する。最大の理由は本来グアイド大統領側につくはずであった、防衛大臣のパドリーノ・ロペスが寝返ったからである。「蓄財金は保全する、訴追しない」という米国の申し出を受けなかったのだ。「自分が大統領になるならば」という受け入れがたい条件をわざと出して、交渉を決裂させたという報道もある。

 彼は、民衆を虐殺する血なまぐさい道からもう後戻りできない。キューバに国を売った売国奴でもある。

5月4日 空軍基地から飛び立った、大統領護衛官を乗せたヘリコプターがカラカス近郊で墜落し、軍人7人が死去。原因は不明。なぜマドゥロが乗っていなかったのかと嘆く者多し。ヘリコプターはコヘーデス(Cojedes)州のサンカルロス(San Carlos)に向かっていた。そこではマドゥロとパドリーノ・ロペスが軍人の前に姿を現し、彼らを鼓舞していた。サンカルロスはチャべス存命の頃にイランが住宅都市を作った街である。

 なおマイアミでは、「なぜアメリカ軍は介入しないのか」と不満を抱く在米ベネズラ人の声が次々に寄せられている。一方、4月10日からワシントンにあるベネズエラ大使館は左翼系のCode pink という団体に占拠されたままになっている。アメリカ政府は手をこまねいているだけである。

5月7日 アメリカはSEBINの元長官マヌエル・クリストファー・フィゲラに対する制裁を解いた。

 これらがグアイドの決起とその前後の主要な出来事である。

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