世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年5月22日

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 4月29日、ISの最高指導者バグダディ容疑者がビデオ動画に姿を現した。このビデオに現れた男が本当にバグダディであるかどうかについては疑念の声も上がったが、まず間違いないと言われている。バグダディは2014年にISが制圧したイラク北部のモスルで、自らを「カリフ(イスラム共同体の指導者)」と宣言し、イラクとシリアにまたがる「カリフ国家」の樹立を宣言して以来姿が確認されておらず、一時は死亡説も流れていた。

(ra2studio/MihailUlianikov/Soloma_Poppystyle/iStock)

 今回のビデオでバグダディは、いまだ生きていることを示しただけではなく、ISがより広い地域の野心を持っていることを宣言した。バグダディは、マリ、ブルキナファソ、アフガニスタン、スリランカの聖戦主義者から新たな忠誠が示されたことを誇らしげに話すなど、ISがイラクとシリアでの領土の喪失を越えて新しいページを開くことを示した。ISは重点をカリフ国の支配から蜂起を促すことに移し、かつてイラクで完成した独自のテロの方式を、インドから西アフリカに至る広範な領域に輸出しようとしている。世界各地からのISに対する忠誠は、ISにとって大きな勝利であると言える。

 ISはイラク、シリアの広い地域を支配していた時にも、2015年から2016年にかけてフランス、ベルギー、英国、インドネシア、フィリピン、アフガニスタン、バングラデッシュでテロ行動を起こしていた。今回バグダディが示した方針が新しいのは、イラク、シリアの本拠地を失った一方で、地域ごとに拠点を作ってテロ活動を実施することにある。

 本拠地の領土を持っていたことは、テロ組織としては敵の攻撃を受けやすいので脆弱性でもあった。事実、その脆弱性を突かれ、領土を失った。他方「カリフ国家」の成立ということで、世界の若者に聖戦を訴え、多くの国から多数の志願者を集めたのはISにとって大きな利点であった。本拠地を失ったことで、この利点は失われた。

 トランプ米大統領は3月22日、シリアでISの支配する地域を完全に制圧したと発表、「対IS勝利」を宣言した。実際にはイラクとの国境のバグスという村で、ISの最後の抵抗が見られたが、翌23日にクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」がバグスのIS最後の拠点を制圧したと発表、ISは完全に制圧された。

 しかし、ISは消滅したわけではない。ISがアフリカ、アジアなどでテロ活動を活発化させているということは、トランプの「対IS勝利宣言」がイラク、シリアにおける対IS勝利宣言にすぎなかったことを意味する。

 今後のISに米国をはじめ西側各国がどう対処するかは大きな課題である。ISが支配地域を失ったということは、ISがアルカイダなど他のテロ組織と同様の組織になったことを意味するともいえる。バグダディは今回の動画の中で、ISはこれまでの経験を踏まえ、「消耗戦」を基礎とする長期戦略を展開する、と言っている。ISの今後を理解するためにはISの最初の台頭の特徴である長期戦略に注目する必要がある。ISはアルカイダなどと比べ手ごわいテロ組織と考えられ、米国等西側諸国は新たな対IS戦略を策定、実施する必要がある。

 より広い地域で陣地を固めようとするISの計画は、最も深刻な脅威と言える。バグダディのビデオは、バグダディを捕らえ、ISを解散させようとした米国主導の連合の失敗を意味する。ISは再び米国主導の連合の一歩先を歩んでいると言えよう。

  
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