トランプを読み解く

2019年5月15日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

時間は誰の味方か?

 貿易交渉の席では、一連の妥結を引き出した後、米国側が中国に約束の執行(実施)の担保を求めた。その要求には数多くの国内法の改正も含まれていたであろう。国内法の改正は主権問題であり、外圧に屈しての国内法改正はまさに負けを意味する。これは政治的に断じて受け入れられないことである。すると、米中交渉の実質的決裂はいずれ不可避になる。

 トランプ氏はもしや、これを知っていたのか? この辺は、拙稿「悪人よりも悪魔を目指すトランプ、毒は猛毒をもって制す」で述べたように、トランプ氏の中国との戦い方は、洗練された紳士ルールよりもむしろ無頼漢らしきものが目立つ。「以其人之道,還治其人之身」(朱熹『中庸集注』第13章)。「その人のやり方をもって、その人を倒す」という意味で、俗にいえば、「毒をもって毒を制す」という策略だった。

 面白いことに、「無毒不丈夫(情に引かれめめしい振る舞いをせず、毒をもって、容赦なく徹底的に相手を叩きつぶす者こそ真の男だ)」という中国のことわざがあり、こうした「仁義なき戦い」のできる猛毒男トランプ氏は逆に、中国人から尊敬されているのではないだろうか。

「サプライヤー、製造施設の中国外移転を加速―米中交渉結果待たずに」。5月8日付けのブルームバーグ記事が報じているように、企業はもう動き出した。トランプ氏が狙っていたところだ。ここにも中国の誤算があった。

 中国は対米交渉で従来の「引き延ばし」戦略を使った。トランプ氏が次期大統領選で落ちれば、局面を挽回できると考えていたのだろう。これに対してトランプ氏はあえて、「交渉は急がない」と微笑んで対応した。理由は簡単だ。企業はもうこれ以上待てない。交渉が引き延ばされている間に、製造業はどんどん中国から逃げ出している。次期大統領選まではもたない。

 時間は誰の味方か? これを考えれば分かる。中国は経常収支が赤字に転落し、数千万人あるいは億単位の失業者が路頭に迷う。一方、米経済は好調だ。

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