オトナの教養 週末の一冊

2019年5月23日

»著者プロフィール
著者
閉じる

本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――子どもたちに就学義務はないのでしょうか?

望月:日本国憲法には、親が子どもに義務教育を受けさせる就学義務がありますが、その対象はあくまで「国民」であるとされているため、外国人の親や子どもにはその義務が無いことになっています。しかし、日本は子どもの権利条約を批准していることもあり、義務教育相当の公立学校では外国人の子どもを無償で受け入れています。ただ、義務ではないため、就学状況の調査が不十分であるなど、通学しなくても仕方ないというスタンスを許容しているように見えます。結果として不就学の子どもの割合が高いというのが現実です。

――外国人労働者は社会保障を受けることができるのでしょうか?

望月:日本はベトナムなどからの難民・ボートピープルを受け入れましたが、1981年に難民条約に加盟したこともあり、社会保障に関する内外人平等の原則へと徐々に移行していきました。在日コリアンの方たちなど、制度の対象外とされてきた人々による分厚い社会運動の歴史も非常に重要です。

 時折「生活保護を外国人に支給するのは違法だ」という記事が拡散していますが誤りです。現在、外国人は生活保護の対象外とされているのは事実ですが、実際には永住者や定住者など特定の在留資格をもつ外国人に関して、厚労省からの通知にもとづき生活保護の準用が行われています。

――昨年の入管法改正により、「特定技能」を持つ外国人の受け入れが決定しました。日本の移民政策は新しい段階に入っていくのでしょうか?

望月:今回の新制度導入で、政府は2019年からの5年間で最大34.5万人の外国人を新たに受け入れるとしています。「大きな転換点」だという声もありますが、すべてが新しいわけではなく、以前の政策から引き継がれている部分も多く残っていることに注意が必要です。すでにお話した通り、外国人を低賃金の労働者として活用していく構造は少なくとも30年以上続いています。これまでの「いわゆる単純労働者」は、技能実習生や留学生など表向きは「労働者」ではなかった。新たな「特定技能」は就労目的の在留資格なわけですが、技能実習からの移行を前提とするなど古い制度との関係性に目を向ける必要があります。

――たとえばどのような「移民政策」をお考えですか?

望月:方向性としては労働面と生活面の大きく2つにわかれます。まず労働面ですが、人権侵害が度々指摘されている建前と現実の乖離した「事実上の外国人労働者」の受け入れの構造を変える必要があります。技能実習生や留学生の中には日本に渡航する費用を多額の借金で賄っている方も少なくないために、仮に約束より低い賃金での重労働や様々なハラスメントに直面してもなかなか逃げ出すことができない。最悪の場合は人身売買にも接近するリスクのあるこうした構造を解消しなければなりません。そのためには、労働者を労働者として受け入れる人権に配慮した制度をしっかり整備し、それ以外の受け入れ口を畳んでいくことが必要です。

 次に生活面ですが、すでに日本で暮らす数多くの外国人について、これまで国として本格的に取り組んでこなかった日本語に関する支援など、社会的に包摂するための仕組みの構築が急務です。これまではNPOや自治体に丸投げされてきた部分について、国としても本腰を入れて取り組んでいく必要があります。

 この2つを実行するとなれば予算も含めて大変なこともたくさんあるでしょう。しかし、新たな外国人労働者の受け入れを議論する際にはこれらの点を含めて議論する必要がありますし、そもそもこれから受け入れるかどうかということではなくてすでにこの国で暮らしている300万人近い外国人の存在を忘れてはいけません。

――出版後、さまざまなメディアに出ていますが、反響はいかがですか?

望月:新聞やテレビなどの報道では「留学生が所在不明」「技能実習生の失踪」などそれぞれバラバラのトピックスとして出てくることが多いので、日本の移民問題や外国人労働者に関する情報の全体像はなかなかわかりづらいと感じていた方は多いと思います。そうした方から「はじめてこの問題の見取り図を得ることができた」といった感想をいただけるのは嬉しいですね。


  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る