コカイン世界最大生産地コロンビアの現場から

2019年5月21日

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柴田大輔 (しばた・だいすけ)

フォトジャーナリスト

日本芸術専門学校卒業後、フリーランスのフォトジャーナリストとして取材・報告活動を始める。2004年から1年間、ラテンアメリカ13か国を旅し、現地で出会った多様な風土と人々の生活に惹かれ、コロンビアを中心にメキシコ、ニカラグア、ペルーで住民運動や日常生活を取材し続けている。

避難先でも暴力日常

 故郷を追われたマリーさんは、海に面したトゥマコ市街地の貧困地区で生活しはじめた。そこには暴力だけでなく求職といった理由で農村から人が集まっていた。しばらくすると、そこも暴力が日常となる。沿岸部が麻薬密輸の要地となり、武装組織が対立したのだ。

 マリーさんは2013年に別の弟を、2014年には息子を殺害されたうえ、さらに娘、彼女自身も武装組織のメンバーにレイプされた。抵抗したマリーさんは激しく殴られ前歯を失い、顎を骨折する大怪我を負う。そこでは武装組織の力が強く警察は影響力を持たなかったという。逃げ場のない世界で、武装組織が住民に暴力という恐怖を植え付ける。対立する組織に寝返ったり情報を漏らしたりすることがないよう住民をコントロールするためだった。

底辺に置き去りにされた住民

 2017年当時、トゥマコにはコロンビア全体の11%に及ぶコカ栽培地が集中し、2018年には人口約21万人の町で248人が殺害された。10万人当たりの殺人件数が120.83人となり、人口30万人以上の都市を対象とした調査ではあるが、「Citizens' Council for Public Security」の2018年調査で10万人当たりの殺人率が世界第1位となったティファナ市(メキシコ)の138.26人、同2位で110.5人のアカプルコ市(メキシコ)と比べるとその規模がわかる。トゥマコでは2000年以降8万人以上が暴力を原因に家を追われ、3500人以上が殺害された。

 「家族を支える夫や父親を殺された人たちがいます。取り残された女性や高齢者、子どもたちが苦しんでいるのです」とマリーさんが話す。

トゥマコに建てられた「歴史的記憶の家」には、遺族により持ち寄られた犠牲者の写真が展示されている

 トゥマコで暴力が蔓延する要因に、同地での8割を超える貧困率、7割に及ぶ失業率があげられる。男性が殺害されるリスクが高いのも、こうした社会構造に由来する。仕事のない中で、目先の収入のために麻薬密輸、敵の監視や裏切り者の暗殺など組織の下働きを担うことがある。特に若くして組織と関わると、教育を受ける機会を逸してしまい、今の生活から抜け出すことがより難しくなる。こうして貧困が武装組織、麻薬経済と住民の結びつきを生んできた。

 だが、トゥマコは資源や産業がない「貧しい」土地ではなかった。かつては金採掘、木材、天然ゴム、ボタンの原料としての象牙ヤシ、パーム油の原料としてのアブラヤシが輸出産業として興隆した時代がある。現在はコカだ。問題は、どの時代もトゥマコが生み出す富は、産業を握る一部の富裕層に集まり、トゥマコ住民に行き渡ることがなかったことだ。住民は常に安価な労働力として底辺に置き去りにされてきた。

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