2024年4月20日(土)

栖来ひかりが綴る「日本人に伝えたい台湾のリアル」

2019年5月18日

イジメの犠牲となった「バラの少年」とは

 ここに至るまでの道のりが平坦だったわけでは、もちろんない。その陰にある多くの犠牲のうえに、積み上げられた大きな一歩である。

 例えば「バラの少年」(玫瑰少年)と名付けられた、屏東県の中学生・葉永鋕さんがいる。葉さんは学校で「女の子っぽい」という理由で長年激しいイジメを受けていたところ、学校のトイレで血の海のなかに浮かんで亡くなったのが、2000年のことだった。

 この事件を受けて台湾では、2004年より性的気質や性的指向を尊重する「性別平等教育法」が施行され、これによって「生物学的性別による平等思想だけでは問題が残ることを世に知らしめ」「同性愛などの性的マイノリティについても言及するようになった」(『台湾を知るための60章』赤松美和子・若松大祐 編著――第30章・性的マイノリティ運動/劉靈均)ことで、日本に比べてはるかに高いジェンダー平等性を実現するに至ったのである。

 この葉永鋕さんに関する記憶は、今回の同性婚をめぐる動きのなかで、新たな意義をもって思い返されることになった。例えば台湾の歌手ジョリン・ツァイ(蔡依林)は、昨年末の国民投票のあとに『玫瑰少年』という新曲を発表した。

 MVでは黒いスーツをまとったダンサーたちの中で、たったひとり黄色いスーツのジョリンだけが異質な存在だが、曲が進むにつれて皆がスーツを脱ぎ捨て、思い思いのスタイルに変化していく。

 「誰かのために じぶんを変えないで」

 「あなたは貴方 もしくは貴女 どっちでもいい」

 「誰かが心をこめて 愛してくれるから」

 映像や歌の端々に固定概念を脱ぎ捨てて、自分と違う他者を尊重しようというメッセージが込められているが、これは葉永鋕さんに手向けられたと同時に、他人との違いに苦しむ思春期の少年少女すべてを勇気づけるための曲でもある。

 実際、昨年の国民投票で同性婚が否決された後にも、少なくない数の若者が、自らを社会に否定されたと感じて命を絶ったといわれる。今年に入ってからも、セクシャリティが原因でイジメに悩んでいた高校生が建物上階より飛び降り、一命は取り留めたものの、両足を複雑骨折して後遺症が残るかもしれないという報道があった。


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