アメリカはカムバックする!
斎藤 彰 著
かつて世界一の大国として地位を誇ったアメリカは、現在、大規模な財政赤字を抱え、経済成長も低迷し、かつてもてはやされた「アメリカ神話」の終焉さえささやかれる。今世紀は、GDP第二位に躍進した中国にナンバー・ワンの座を明け渡すことになるのだろうか。しかし、そうした短兵急な未来予測をする前に、今一度、アメリカという国を建国の歴史に立ち返って冷静に見つめ直し、そこから将来の姿について考察してみる必要があるのではないか。
アメリカが将来にわたって世界一の超大国として君臨し続けるためには、乗り越えなければならないハードルが少なくない。
巨額の財政赤字をどう克服していくか。行き過ぎた個人主義からいかに脱皮できるか。政治と宗教の分離をいかに徹底させるか。世界でも類を見ない多民族社会の調和と統一をいかに維持していくか。分断されつつある家族の価値観をどう修復していくか。拡大する貧富格差をどこまで是正できるか。基礎教育のレベルアップをどう図るか。アメリカ一国主義から国際主義への移行に取り組めるか。
これらの課題の中には、建国以来の“アメリカ精神”に直接関わるものも少なくないだけに、達成は容易でなく、時間を必要とする。しかし、すでにわずかながらも改善の兆候も出始めているものもある。アメリカの真のパワーを総点検し、超大国アメリカの危機脱出の道筋を示唆する待望のアメリカ論。
◇四六判上製、240頁
◇定価:1,890円(本体1,800円+税)
◇2011年12月19日発売
<著者プロフィール>
斎藤 彰(さいとう・あきら)
1966年早稲田大学第一政経学部卒業、68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞東京本社入社。外報部、社会部をへて二度にわたりワシントン常駐特派員、92~96年までアメリカ総局長。その後、東京本社国際部長、編集局総務、執行役員中部支社長、東京本社取締役調査研究本部長、読売日本交響楽団理事長などを歴任。現在、神田外語グループ参与、ジャーナリスト。著書に『核戦略ゲーム』(講談社)『CIA』(講談社)『日本救出』(集英社)など。共著に『アメリカNOW』『インサイドUSA』『ヨーロッパNOW』(いずれも読売新聞社)など。
アメリカは、冷戦崩壊に続くソ連消滅によって「唯一の超大国」となって以来、世界からうとまれ、警戒され、あるいは猜疑心の対象となってきた。とくに、“情報革命時代”の幕開けともいわれた1990年代の10年間は、アメリカの個人所得は1990年の景気後退時期とくらべて倍増し、生産性も着実に向上、ウォール街の株価も1万ドル台を持続するなど、一時は“わが世の春”を謳歌する勢いを見せた。
その一方、欧州はドイツ統一の「負の遺産」やロシア国内情勢の混乱などのあおりで経済が低迷し、アジアも97年の金融危機で大打撃を受けるに及んで、アメリカの「一極支配」はいよいよ本格化するかに見えた。
しかし、2001年「9・11テロ」以来、それまで快調だったはずのアメリカの歯車が、政治・軍事のみならず経済面でも狂い始めた。対イラク戦争に勝利したものの、その後の大規模なテロとの戦いが長期化するにつれて アメリカ経済の足かせとなり、とくに2007年以来、景気の減速が露呈し始めた。ちょうどそのころ、日本を含むアジアとEU諸国の間で、もてはやされたのが「デカップリング(切り離し)」理論だった。
つまり、米国経済が減速しても、これからは中国・インド・ロシア・ブラジルのいわゆるBRICS新興国経済や、欧州経済が成長を続けることで、世界経済の新たな牽引役となれるというものだった。わが国の経済学者の間でも、この理論に便乗して、従来のアメリカ一辺倒の経済政策の見直しを提唱し、政界でも民主党を中心に、日米同盟関係より、中国を含めたアジアとの関係強化を求める動きが目立った時期もある。
ところが、こうした「アメリカとアジア・欧州は別」という割り切った楽観論は、ものの1年もたたないうちに影をひそめてしまった。
というのは、2008年9月、米証券会社リーマン・ブラザーズ経営破たんをきっかけとした、100年に一度といわれた金融危機があっというまに世界中を覆い尽くし、「世界同時不況」に陥ってしまったからだった。一時はアメリカが直面した経済困難に対し「対岸の火災」をきめこんでいたはずのアジアとEU諸国がとたんに泡を吹く格好となった。
そして、「アメリカ一極支配」から脱し、独自の通貨(ユーロ)と独自の新たな政治機構の樹立をめざして快調に滑り出したかに見えたEUは今、アイルランド、ギリシア、ポル トガルそしてイタリアなど加盟国のあいつぐ深刻な財政危機あy信用不安が露呈し、その対応をめぐって内部分裂の様相さえ呈し始めている。
つい最近、バローゾ欧州連合(EU)欧州委員長が「ユーロ圏の財政危機は深刻な状況にあり、解決に失敗すれば、影響は欧州を超えて拡大する」と警告したことは、EUが抱える問題がいかに根の深いものであるかを暗示している(2011年7月20日記者会見)
アジア諸国もいまだに「世界同時不況」の負の連鎖から抜け出せない。当初は、米国経済の減速は、中国経済には無縁かと思われた。しかし、EU経済が減速し始めるに至って雲行きがおかしくなってきた。もともと中国の高度成長を支えてきたのは輸出だったが、対米のみならず対EU輸出にまで影響が及んで、中国経済への打撃も無視できないものとなってきた。
そして中国市場への輸出拡大を頼みとする他のアジア諸国でも景気減速が懸念され始めている。このことは、今や世界は好むと好まざるとにかかわらず、完全なグローバル経済の時代に突入したこと、そしてアメリカ、欧州、アジアが唯我独尊ではなく相互依存の関係の中でしか存立しえないことを明確に物語っているといえる。
なかんずくアメリカとの関係は無視できない。
昨今「もはや基軸通貨としてのドルの時代は終わった」とか「アメリカの衰退が始まった」とか言われている。しかし、いまだに、経済回復のためには「ドル安」ではなく「ドル高」に依存するしかない他人頼みの体質はが、日本もアジア諸国もEUも変わらないのは、どう説明すればいいのか。とくに日本は、これ以上の円高不況を恐れて、「急激な円高進行が産業の空洞化を加速させかねない」(白川方明日銀総裁)として金融市場でのドル高誘導に躍起となっている。
だが、そもそも「強いドル」は強大なアメリカあってこその話だ。アメリカ経済が弱体化すれば「ドル安」は避けられない。それは日本経済を直撃する。にもかかわらず、一方では「アメリカ衰退論」を唱えて中国ににじり寄り、一時はアメリカからの「デカップリング」に心酔してきたのである。
そして今になって、再び「強いドル」への期待を強めるニッポン――。
これまでの「日本丸」の航跡を見る限り、その羅針盤が狂っていたか、機能停止に陥ったのではないかと疑われても仕方がない。
本書は、世界に依然として大きな影響力を持つアメリカの現状と将来について、たんに目先の財政事情や内外政策にとらわれることなく、体質から総合体力にいたるまで根本的に見つめ直し、そのカムバックの可能性に力点を置いたつもりだ。たんなる“触診”ではなく、内面を輪切りにして覗き込む、いわば“CTスキャン”的診断が今こそ必要とされているときはないからだ。(以下略)
(続きは本書でお読み下さい)
<目次>
序
第1章 「成熟期」への助走
第2章 増え続ける人口
第3章 軍事力と愛国心
第4章 ソフト・パワーの源泉
第5章 眠れる資源大国
第6章 差別の克服
第7章 問われる優勝劣敗社会
第8章 カムバックの処方箋
第9章 日本の選択
あとがき (立ち読み)


