立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年5月21日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

新冷戦の行方を左右する「非赤供給網」とは?

 最近、台湾系中国語メディアの間では、ある流行語がもてはやされている――「非紅供応鏈」――「ノンレッド・サプライチェーン」、あるいは、「非赤供給網」。要するに、共産政権である赤色中国以外の供給網のこと。中国語の漢字から「供給網」と訳されることもあるが、少し説明が必要だ。日本語の「供給網」はしばしば「部品供給網」と理解されるが、「サプライチェーン」とは、ある製品が原料の段階から消費者に至るまでの全過程のつながりのことを意味し、厳格にいうと広範囲を網羅する「包括的供給網」である。

 米中のイデオロギー対立に基づく対決の姿勢が際立ち、貿易戦争はもはや通商の次元を超えて「新冷戦」化している(参考:「Made in China」が米国市場から消える日)。このため、中国の「赤色供給網」は狙い撃ちされていると言っても過言ではない。

 台湾・行政院の龑明鑫政務委員は、「台湾経済は短期的に、米中貿易戦争からマイナス影響を受けるが、それで多くの台湾企業が投資を台湾に戻すから、国内では新たな産業集積が形成されるし、さらに東南アジアとの協力によって、『非赤供給網』ができあがるだろう」との見方を示し、「台湾企業が東南アジアの国々で『赤色供給網』以外のサプライチェーンを作り上げれば、向こう20年以内に、世界で中核サプライチェーンの役割を演じることになるだろう」と指摘した(5月15日付け台湾・民視影音報道)。

 「非赤供給網」は単一国家でなく、複数の国・地域に分布するだけに、いまのような中国一国集中のリスクが低減される。さらに各国は得意分野に応じて異なる役割を引き受けるという合理性もある。たとえば、ベトナムが労働集約型の製造基地となれば、台湾はハイテク産業の中核を担う。このように形成された地域にまたがる「非赤供給網」はインド洋から南シナ海、台湾海峡、東シナ海、日本海までとつながり、地政学的に自ずと「非赤シーレーン」を形成し、地域安全保障上のアドバンテージとなる。

 一方、サプライチェーンが中国から転出した場合、中国経済は弱化する。輸出型の加工製造業を中心に運営してきた中国は新たな成長源を見つけない限り、大問題となる。大量の外資撤退だけではない。輸出系の中国企業も海外への脱出に乗り出す。相次ぐ企業の撤退や脱出に伴い、産業空洞化が進み、失業も急増する。この辺、中国ではすでに異変が起きつつある。

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