世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年5月27日

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 3月31日に行われたトルコの統一地方選挙では、エルドアンの与党AKP(公正発展党)は苦戦を強いられ、首都アンカラ、最大都市イスタンブールの市長選挙を接戦で落とした。エルドアンとAKP側はこれを受け入れず再集計を求めたが、4月中旬には選挙当局は、イスタンブールで野党候補のエクレム・イマモールがAKPの元首相ビナリ・ユルドゥルムに0.3ポイントの僅差(14000票に満たない差)で勝ったことを確認した。AKP内部ではこの敗北に異議を申し立てるか否かで大きな議論があったようだが、エルドアンは再選挙を求める決定をしていた。5月6日、圧力に屈した選挙管理当局はイスタンブール市長選挙のやり直しを命じた。

(epic11/LightFieldStudios/iStock)

 イスタンブールはエルドアンにとり、市長として政治の道に入った場所であり、「イスタンブールを制する者は、誰であれトルコを制する」と、彼は言ったことがある。5月9日付のニューヨーク・タイムズ紙社説‘Turkey Will Keep Voting Until Erdogan Gets His Way’は、「エルドアンの強権政治の下で、政治の土俵は公正というには程遠かったが、それでもトルコ国民は選挙を彼等の意見を表明することが出来る場と捉えて来た」と指摘する。逆に言えば、そのエルドアンも選挙を自己の生き残りの拠り所として来た。ところが、そこが危うくなって来た。それ程、最大都市イスタンブールはエルドアンにとって重要なのである。しかも、そこには政権を支えるために必要な利権の甘い汁を配分するための網の目が構築されているということらしい。この都市が野党の手に渡れば、その内情が暴露されるに至る可能性がある。エルドアンとしては、そのことを恐れているのかも知れない。

 選挙管理当局がやり直しを命じた根拠は、投票所の係官の資格に問題がある者が含まれていたということらしいが、些細なこじつけである可能性が濃厚である。やり直しを命ずるべきものであるとは到底思われない。欧米からは非難の声が上がっている。例えば、モゲリーニEU上級代表は、選挙をキャンセルすることは「民主的な選挙プロセスの中核的目的に反する」と述べている。しかし、欧米との関係は既に十分にギクシャクしており、再選挙の決定でどうなるものでもないようである。国内では抗議のデモが行われたが、暴力的なことにはなっていない。野党側は、イマモールを先頭に受けて立つ構えのようである。

 やり直し選挙は6月23日に予定されている。上記のニューヨーク・タイムズ紙社説は、選挙のやり直しを命じたことはエルドアンの弱さが露呈したものであるとする。そして、再選挙は無名であったイマモールの立場を大きく強化することになった、幾つかの小政党が撤退したのでイマモールのチャンスは広がっている、などと指摘し、イマモールには十分な勝算があると見ている。しかし、やり直しを強いたからにはエルドアンはありとあらゆる手を使って勝とうとするであろう。それで負ければ彼にとって重大な政治的分岐点になることは間違いないので、それ以外に選択肢はないであろう。いずれにせよ、この混乱はすぐには終息しないのであろう。

  
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