世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年5月28日

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 米司法省は5月9日、北朝鮮の貨物船ワイズ・オネスト号を制裁違反の容疑で差し押さえた、と発表した。北の船舶の差し押さえは初めてとなる。この船は北所有貨物船の中で2番目に大きいもの(1万7061トン)で、2016年11月頃から北朝鮮の南浦で石炭を積み、中国やロシアに向けて出航していたといわれる。

(S-S-S/iStock)

 北の制裁回避の手口は高度、かつ執拗である。米関係機関によると、北は瀬取りにより、国連制裁で認められている量の7.5倍以上の精製石油を輸入すると同時に、大量の石炭を輸出する抜け道を見つけている。北にとり石炭輸出はミサイル・核計画を進めるために必要なハード・カレンシーを確保する生命線になっている。米国による差し押さえが実行されたことで、不法な運搬をする業者は今後二の足を踏むことになると思われる。

 2月の米朝首脳会談決裂を受け、北朝鮮は、ミサイルなどの発射を再開している。5月4日に元山から日本海に発射された複数の飛翔体の中には、移動式の発射台から飛び上がる「ロシアの短距離弾道ミサイルであるイスカンデルに似ている」ものが見られると分析されている。発射された短距離飛翔体は数発で、それぞれ70~200キロ程度飛行した。また5日後の5月9日には平安北道新五里から飛翔体を発射した。新五里一帯にはスカッドとノドン・ミサイル基地があるといわれる。韓国は、亀城付近から2発の飛翔体の発射があり、飛行距離はそれぞれ約420キロ、270キロだったと明らかにしている。その後、米国は9日発射の飛翔体につき弾道ミサイルだと断定した。

 4日と9日の発射は、米朝交渉が動かず、同時に制裁により経済状況などが逼迫することに対する北の焦燥感を示すものだろう。同時に、短距離ミサイルに限定するなど、交渉を継続したい意思や安保理制裁違反を回避したい思惑も垣間見ることができ、それなりに慎重に行動しているようにも見える。しかし、飛翔体の中には弾道ミサイルがあり、それは安保理決議違反になる。

 いずれせよ、今は米朝双方にとり我慢比べの時である。制裁の維持が重要である。一つ気がかりなことがあるとすれば、米国はイラン等との間で対決の姿勢を強めており、これらの複数の戦線を同時に管理する能力をトランプ政権が持っているかどうかである。優先順位が重要となる。

 米国のシンクタンクCSISは5月9日、新たにミサイル基地の全容が明らかになったとして、ユサンリに関する写真情報等を公開した。ユサンリ基地は平壌から北東に63キロ、ソウルから北東に220キロの距離にあり、北朝鮮戦略軍ミサイル作戦基地として旅団級以上の部隊が配備されているという。山全体を掘って建設されたもので巨大地下施設には旅団クラスも駐屯できると見られている。報告によると2003年に工事を開始、ミサイル部隊本部とミサイルを保管する地下施設、支援施設、住宅など6つの施設が建設されたことも分かっているという。

 北の食料事情については、逼迫が伝えられている。配給が削減されているという。不作の他に制裁も影響しているかもしれない。5月7日、韓国の文在寅大統領はトランプ米大統領との電話会談をした。韓国側は、トランプは韓国による人道援助は「時宜に合った、前向きな措置だ」と述べた、と発表している。しかし、米側発表には人道援助の話は一切言及されていない。北が姿勢を変えない限り今の状況では人道援助も難しいだろう。

  
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