世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年5月31日

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 台湾では、来年1月に予定されている総統選挙に向けた動きが激しくなっている。

(Alexandrum79/dimapf/iStock)

 与党民進党は、蔡英文が現職の総統であるが、同氏の不人気ぶりに、頼清徳・前行政院長(首相)も出馬を表明、両者の調整がつかず、候補者決定が当初予定されていた4月から、5月、6月へと延期される事態となっている。民進党の候補者選出は世論調査によって決めることになっているが、蔡英文は頼清徳の後塵を拝しているようである。

 さらに大きな話題となっているのは国民党の予備選挙の行方である。朱立倫・元党主席や王金平・元立法院長も出馬の意向を持っているようだが、目下のところ、昨年11月の統一地方選挙で民進党の牙城である高雄市で市長に当選した韓国瑜、4月に出馬を表明した鴻海(ホンハイ)精密工業会長の郭台銘が有力のようである。韓国瑜は「韓流」と呼ばれるブームを起こした人物であり、郭台銘は著名で力のある経済人である。

 ただ、郭台銘は、中国との関係で懸念が高まっており、支持率を下げている。鴻海工業は日本のシャープを買収するなどしている世界的なIT企業であるが、中国本土に多くの工場を擁している。中国本土に半導体工場を作る動きもある。そこで、郭の立候補によって生じるかもしれない中国からの干渉・圧力の可能性が問題となる。郭が台湾の総統になるようなことがあれば、同氏は中国の意向に従わざるを得ないだろう。台湾の有権者は、そのことを理解しつつあるように見える。なお、郭は、2014年の「ひまわり学生運動」(馬英九総統(当時)の親中政策に異を唱える学生、市民らが立法院を占拠するなどした)に際し、「民主主義で飯は食えない」「民主主義はGDP拡大の助けにならない」などと述べた。

 韓国瑜は高い支持率を保っている一方、高雄市長に当選したばかりで総統に転身するのは裏切りではないかとの批判が強まっている。これに対し「当選したら高雄で総統としての執務をする」などと言っている。選挙戦が進むに従って、こうした素人的な言動が問題となる可能性はあると思われる。

 次期総統選に向けて、各候補にとり、中国との距離を如何にとり、如何なる関係を保つか、また、米国、日本との間でいかなる方策を取り、関係を強化するかなどが、喫緊の課題である。

 民進党の両名の対中政策は、その時その時で表現の違いはあるが、基本的に、92コンセンサス(1992年に「一つの中国」で中台が合意しているとされる)を認めず、「独立」という現状を維持するというものである。

 これに対し、国民党側は92コンセンサスを認め、中国との「平和条約」に前向きである。郭台銘については、上述の通り、中国との近さが懸念材料となっており、中国寄りであるとの印象を払拭しようと躍起になっている。郭は5月初めに92コンセンサスについて、「一中各表」(一つの中国。その内容は中台がそれぞれ解釈する)でなければならず「中華人民共和国と中華民国の二つの国を意味すると考えている」と述べた。国民党はかつて「92コンセンサス、一中各表」を両岸政策の基礎としてきたが、中国側は「一中各表」を認めたことはなく、国民党は最近「一中各表」をあまり言わなくなっている。韓国瑜は、安全保障を米国に、技術を日本に、市場を中国に頼りたい旨、述べたことがある。韓は3月下旬に訪中し、中国の国務院台湾事務弁公室主任(閣僚級)との会談をするなどしている。中国は、台湾の中央政府の頭越しに台湾の地方のリーダーへの接触を強めている。それに乗るような行動は、中国への警戒が弱いことをよく示していると言えよう。

 いずれにせよ、中国側が総統選挙にネット等を通じた厳しい情報戦を従来以上の規模と強さで仕掛けることは間違いないであろう。今年1月には習近平が、台湾を「一国二制度」の枠組みで統一すること、台湾の統一には武力行使を辞さないこと、などを明言した。次期総統選挙は今後の中台関係、ひいては地域の安定と平和をも大きく左右する重要な選挙である。もちろん現段階で帰趨を言うことは不可能であるが、ますます目が離せなくなってきている。
 

  
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