インド経済を読む

2019年5月22日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

「ダンピングの玉突き」を恐れるインド経済界 

 そして、為替と対米輸出以外にもインド政府が懸念しているのが「インド国内産業への影響」である。

 米中貿易戦争がこのままヒートアップして「世界の工場」たる中国から米国への輸出が大きく減少するようなことがあれば、多くの中国製品はその行き場を失うことになる。その場合、その「価格競争力のある製品」が向かう先は毎度新興国なのだ。

 過去にも米国や欧州の景気が後退して輸出が減少した時、行き場を失った中国製品はその行き先をインドやインドネシア、タイなどの新興国に求めた。

 トランプ大統領から「不当なダンピング」と指摘されて行き場を失った大量かつ価格競争力の高い製品がインドに流れ込んだ場合、それがインドの国内企業、延いてはインド経済に与える影響は非常に大きいと考えられる。ニューデリーを拠点とするインド系のシンクタンクも、その「ダンピングの玉突き」は、特に自国内の電化製品、鉄鋼、有機化学製品業界において無視できない影響を与えると分析している。

 たとえばスマートフォンに関して、インドにおける中国製品のプレゼンスは年々高まっている。「高性能で高い」ものより「中性能で安い」ものを好むインド人の気質にマッチしたからだ。「高い」を理由に敬遠されて韓国製品の後塵を拝してしまった日本企業のように、中国の新興スマホブランドVivoを使い始めたインド人にとって、今や韓国のサムスンやLGの商品はもう「高い」になり始めているのだ。

 日本はこの米中貿易戦争により中国経済が冷え込むことで、日本からの「輸出」が減少することを懸念しているのに対し、インドは行き場を失った中国製品の来襲という「輸入」を懸念している。

 「Make in India」の掛け声のもと、内需の拡大や雇用の安定を目指して国内の製造業の育成を図ってきたインド政府にとって、競争力のある外国製品に国内製品が駆逐されるのは悪夢である。

 先述の米国によるGSP除外に対し、インド政府は「報復措置等は考えていない」と発表したが、もし中国製品の来襲があった場合、インド政府が強気の外交カードを切る可能性は高いと言える。

 その場合、米中同様に報復措置合戦となり、インドをネクストチャイナの最重要市場と見なし始めた日本企業にも大きな影響を与えるだろう。

 日本からの目線でも、インドからの目線でも、米中貿易戦争の行方は一時たりとも目を離せない状況になっているのだ。

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