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2019年5月24日

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露口洋介 (つゆぐち・ようすけ)

帝京大学経済学部教授

帝京大学経済学部教授。専門は中国経済、金融論。1980年東京大学法学部を卒業し、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長を歴任し、2011年に日本銀行を退職。信金中央金庫、日本大学経済学部教授を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)、『アジア太平洋の未来図』(共著)、『中国の金融経済を学ぶ 加速するモバイル決済と国際化する人民元』(共著)など。

中国の「資本流出」とはどういう意味か?

 この金融収支がマイナス符号で、中国語では「逆差」(日本語に訳すと「赤字」)と表現される状態となると、マイナス符号を見て単純に「資本流出」が生じているとする論調がよくある。「資本流出」というと、中国人が資産を国外に避難させたり、海外の投資家が中国に投資していた資金を引き上げたりして国全体の富が減少するというイメージを描きがちであるが、「資本流出」と表現される状況において、具体的にどういうことが起きているかについては詳細な検討が必要である。

 国際収支統計では経常収支+資本移転等収支―金融収支+誤差脱漏=0という関係が成り立つ。誤差脱漏を無視し、資本移転等収支も少額なので無視すると、おおよそ経常収支=金融収支となる。中国では金融収支の符号が逆であるから経常収支=-金融収支である。

 具体例として、中国で貿易黒字が生じ経常収支が黒字となった場合を考えよう。貿易取引が外貨で決済されるとすると、輸出が増えて貿易黒字が生じた場合、国全体として新たに外貨を獲得する。それはすなわち、海外の銀行に預金の形で保有する外貨が増加するということである。これは海外の銀行に投資している資金が増加したことになり、金融収支のマイナスが経常収支の黒字と同額増加する。すなわち「資本流出」である。自国通貨で決済される場合は対外債務が減少するという形で同様に金融収支のマイナスが増える。このような状況では中国の経常収支は黒字であり、対外資産は増加する。中国では1994年以来経常収支の黒字が続いており、金融収支も1997年以来2015年まで流出超が続いている。対外資産残高も2014年末まで、増加し続けた。経常収支の黒字によって外貨を獲得してきたわけであり、「資本流出」というより「対外純資産の増加」と表現すべき状況だったといえる。この間、2005年7月に「管理された変動相場制」に移行した人民元の名目実効為替レートは上昇を続けた。中国の国際収支は非常に健全な状態だったといえる。

 2014年第3四半期以降は経常収支が黒字で金融収支も流出超が続いたが、金融収支のうち外貨準備が減少し始めた。2014年末までは対外資産は増加していたので、増加する対外資産の中で外貨準備から外貨準備以外の資産に振り替わっていたわけである。この時期、人民元為替レートには人民元安圧力が生じており、為替レートの安定を維持するために人民銀行がドル売り介入を行ったため外貨準備が減少した。

 2015年になると、年間で経常収支は黒字、金融収支は流出超、外貨準備は減少という状況は2014年と変わらなかったが、対外資産負債残高が、資産・負債両建てで減少した。この時期、それまで海外から流入していた資金が回収され対外負債が減少し、負債を返済するために対外資産が使用された。対外資産・負債双方の減少を伴う典型的な「資本流出」が生じたといえる。ただ、主体的に動いたのは海外の投資家ではなくて当時のドル独歩高を眺め人民元安を予想した中国国内の借手が、海外からドル建てで借り入れた債務の人民元建てでの膨張を嫌って債務の返済を進めたことが主因であった。返済のための外貨買い入れがさらに人民元安圧力を高め、人民元為替レートは2015年8月に大幅に切り下げられた。もっとも、国際収支の最悪のパターンは経常収支が赤字で対外資産・負債が両建てで減少する状況である。中国は経常収支黒字を維持しており最悪のパターンには陥ってはいなかったと言えよう。

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