Washington Files

2019年5月28日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 実業家時代から“ビッグ・ディール”を売り物にしてきたトランプ大統領。だが、ここにきてエスカレートする対中国貿易戦争、対イラン情勢の緊迫化、対北朝鮮対話の停滞、南米ベネズエラ情勢の混迷など、いずれも外交面での次の一手で決定打を欠き、今後の対応に苦慮している。

対中関係

(mars58gettyimages)

 「対米貿易戦争で、中国当局が人民に長期戦の覚悟呼びかけ」――米ワシントン・ポスト紙は20日、こんな見出しの北京特派員記事を掲載した。

 この記事はまず、習近平国家主席ら中国政府首脳が同日、かつて毛沢東率いる「長征」の出発点にあたった南部・江西省での記念式典に出席、「われわれは重大な挑戦に打ち勝つ用意がある」と語ったことを伝えた。長征は、共産党軍が国民党軍撃退めざし1万キロ以上にわたり展開した大踏破作戦として知られ、この日の式典に対米貿易協議で中国代表を務める劉鶴副首相も同席したことから、米中貿易戦争の長期化に対処する用意があることをアピールするねらいがあったとみられている。

 同記事はさらに、週末にかけて(1)国営テレビ「CCTV-6」が予定番組を「朝鮮戦争」ドキュメンタリーに急遽変更、米軍が一時は北朝鮮にまで攻め込み優位に進めていた戦いに中国共産党軍が参加し、これを押し返した時点で休戦に持ち込んだ状況を再現した(2)そのほか1960年代にアメリカ人スパイによる中国国内でのいくつかの妨害工作を果敢に打ち砕いた共産党員たちの“武勇伝”を取り上げた3本の回顧映画があいついで放映された(3)共産党機関紙「人民日報」国際版「Global Times」の著名ジャーナリストが同日「中国には対話と戦いの両面に同時に対処してきた長い記憶があり、(これらの番組は)アメリカとの貿易戦争の終わりがすぐに見えないことを人民に想起させるためのものだ」と論評した――などの動きに言及した。

 さらに同紙特派員によると、中国メディアはトランプ政権による一連の対中関税引き上げ措置に対し、当初は政府当局の慎重な対応ぶりに合わせ目立った対米非難を控えてきた。しかし、その後、大統領が「25%関税引き上げ」で追い打ちをかけ始めて以来、中国政府の態度硬化に同調するように一気に論調もエスカレートしており、新華社通信が「アメリカが話し合いに応じたいなら扉は開かれている。しかし、戦いを望むのであれば、中国は最後の最後まで戦い抜く」と報じたことも紹介している。

 一方、米議会では、かねてから人権抑圧問題などで中国に批判的な上下両院の民主党議員の多くが、移民政策など内政面での政権との対立姿勢とは対照的に、対中貿易戦争では与党共和党に歩調を合わせ、むしろ保護貿易主義による国内産業重視方針を歓迎する空気が広がっている。

 ただ、今後、さらに対中圧力を強め、輸入関税を際限なく引き上げることになれば、物価上昇による国民生活へのしわ寄せが拡大、低・中所得者層からの反発を招きかねず、中国側から妥協を早期に引き出せない場合、どこまで強気の姿勢を取り続けるか、トランプ・ホワイトハウスにとっても、苦しい選択を迫られている。

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