世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年6月6日

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 スリランカでは4月21日のキリスト教の復活祭に起きた、イスラム教過激派による爆弾テロを引き金として、すさまじい反イスラム暴動が引き起こされた。爆弾テロの対象が主としてキリスト教徒や外国人であったことを考えると、爆弾テロに対する報復と言うよりは、爆弾テロをきっかけにして反イスラム感情が噴き出したものと言っていいであろう。

(Zarianlk/NiseriN/iStock)

 スリランカではこれまでも何度となく反イスラム暴動が起きており、反イスラム感情が根強いことが分かるが、今回はこれまでと異なって、イスラム教徒の財産やビジネスのみならず、イスラム教徒が攻撃されたと言う。また暴動の規模も、2018年の暴動では3日で465件の物件が破壊されたのに対し、今回は一日で500か所が破壊されたとのことである。

 現在、スリランカの人口の9.7%がイスラム教徒である。スリランカ人の約10人に一人がイスラム教徒という勘定になり、決して少ない数ではない。そのイスラム教徒が憎悪の対象にされれば、スリランカ社会の安定は脅かされざるを得ない。

 スリランカでは1983年からスリランカ北・東部の分離独立を目指す「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)が反乱を起こし、2002年に政府とLTTEとが停戦に合意その後和平交渉などを経て2009年にようやく内戦が終結、スリランカに平和と安定がもたらされたかに見えたのだが、今回の暴動でスリランカの平和と安定が危機にさらされていることが明らかになった。

 根強い反イスラム感情の他に気がかりなのは、政府が反イスラム暴動の抑圧に及び腰であると見られる点である。政府がブルカなどの着用を禁止したことは、イスラム教徒に対する警戒感を表しているように思われる。治安部隊の一部が攻撃に加わっていたとの情報もある。スリランカ政府は、イスラム教徒に対する憎悪が暴力化しないよう、細心の対策を取ることが求められる。

 今、スリランカは多くの国難を抱えている。その一つは中国の影響力が強まっていることである。一帯一路計画の一環として開発された南部ハンバントータ港が、債務が返済できず、権益の大部分が99年間中国系企業に貸与されることとなった。また、コロンボ沖合で、219ヘクタールの埋め立て地に商業施設や住宅を作る大型開発事業「ポートシティ計画」を中国主導で進めている。開発資金約14億ドルは中国がすべて融資するとのことであるが、中国色の極めて強い施設になることは間違いない。なお、これに対抗するように、日本政府はインド、スリランカと共同で、コロンボ港を共同開発するということである。5月20日付けの日経新聞は、今夏までに3カ国で覚書を交わし、2019年度中にも工事に着手する方針である、と伝えている。

 スリランカ政府は、中国の影響力の強まりに如何に対処するか、難しいかじ取りが要求されているが、そのうえ反イスラム感情の暴走の阻止に取り組まなければならず、内憂外患の状況にあると言ってよい。スリランカは、インド太平洋構想にとってもカギを握る位置にある国の一つである。スリランカが抱える内憂外患は、日本としても注視していかなければならない。

  
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