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2019年5月31日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

炉端焼きを楽しむ両夫妻( Kiyoshi Ota/Pool via Reuters/aflo)

 ゴルフに相撲に炉端焼き、おまけは自衛隊の護衛艦――。トランプ大統領の来日は歓迎ぜめ、お祭り騒ぎといっていいほどだった。肝心の安倍首相との会談はどうだったか。貿易問題で合意はみられず、北朝鮮問題でも認識の隔たりが鮮明になった。派手な舞台装置とは裏腹に、むしろ、いくつかの「?」が残った。 

米メディアも揶揄

 トランプ大統領への厚遇ぶりについては一部メディア、野党が口を極めて批判、非難した。

 5月28日付、朝日新聞社説。「もてなし外交の限界 対米追従より価値の基軸を」という見出しで、「国賓を丁重に迎えるのは当然だが、度がすぎると言わざるを得ない」と辛辣な論評を加えた。毎日新聞社説の見出しは、「米大統領への特別待遇 長期の国益にかなうのか」。トランプ氏が日米貿易交渉について「7月の(参院)選挙後まで待つ」とツィートしたことに関して、「安倍政権の意向を反映した」として、「〝政権益〟になっても国益にそうかはわからない」とこれまた辛口の分析。

 妙に説得力があったのは、立憲民主党、枝野幸男代表のコメントだ。産経新聞の記事。「(枝野氏は)大相撲観戦を歓迎しつつ。土俵近くの枡席に招いたことを非難した。『天覧相撲』でも周囲への配慮から2階席から観戦されていることをあげ、『日本政府が枡席を提案したのならば陛下に失礼だと』述べた」――。

 厚遇批判に天皇陛下を引き合いに出すというのは、陛下の政治利用につながりかねないが、枡席に椅子を持ち込んだのは、確かに異様だった。 

 米ニューヨーク・タイムズ(5月24日電子版)は、「トランプ訪日にアベはへつらいを重ねる。結末は?」という手厳しい見出しの記事で、「安倍首相にとって、ごますりは、外交を個人的な努力とみなすトランプ大統領を研究した結果だ。しかし、内外の専門家はこれが報われるのかと疑問視している」と皮肉を効かせた分析を展開した。

 厚遇の是非については国民の判断にまかせるとして、肝心の会談内容について、払拭できないいくつかの疑問について考えてみたい。

ミサイル、大統領の驚くべき認識

 第1の「?」は朝鮮半島情勢だ。

 北朝鮮が5月9日、短距離弾道ミサイルの発射実験を強行したことについて、会談後の共同記者会見で安倍首相は「関連する安保理決議に違反する。きわめて遺憾だ」と明快に日本の見解を示した。常に北朝鮮のミサイルの脅威にさらされている日本の首相としては当然だろう。

 びっくりしたのはトランプ大統領の発言だ。「(決議)違反だという人もいるが、私は違った見方をしている。そんなことは問題ではない」。そのうえで、「金正恩は注意を惹きたかったのかもしれない。核実験も行われず、長距離弾道ミサイルも発射されていない。とても賢い人間だ」と独裁者を持ち上げてみせた。記者団も唖然としただろう。

 射程の長短にかかわらず、北朝鮮はいかなる弾道ミサイル発射も国連制裁決議で禁じられている。今回の発射がこれに抵触するのは明らかであり、大統領に同行したボルトン補佐官(国家安全保障問題担当)も首脳会談に先立つ5月25日、国連決議違反を明確に認めている(5月26日付、産経新聞ほか)。

 政権内部、重要な同盟国首脳との間で認識に乖離があるとなれば、北朝鮮に付け入るスキを与えることにならないか。トランプ大統領は、米国本土に到達するICBM(大陸間弾道弾)さえ、北朝鮮が装備しなければよしとし、日本や韓国が脅威にさらされる中短距離弾道ミサイルは容認するつもりではないかとの疑念を抱かせる。日本の脅威を無視する形で米朝交渉が妥結するのは、わが国にとってもっとも懸念される結末だ。

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