迷走する日本の「働き方改革」への処方箋

2019年6月1日

»著者プロフィール
著者
閉じる

立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

騙される日本人経営者の実態

 海外といえば、日本人が騙されるのが日常茶飯事。日系企業の日本人幹部たちもよく現地人に騙される。いや、ちょっと語弊があるので、訂正させてもらおう。「騙す」とは、嘘を言って、本当でないことを本当であると思いこませることだ。実は、嘘でなくても、真実であっても、日本人は「騙される」ことがあるのだ。

 たとえば、+A、+B、-A、-Bという4つの事実があるとしよう。「+」はグッドニュース、「マイナス」はバッドニュース。某現地スタッフX氏は日本人上司のY氏に+Aと+Bの事実だけを伝え、-Aと-Bの事実を隠してしまう(その逆もあり得る)。架空の話をでっちあげたり、事実を捻じ曲げたりすると嘘つきになり、騙すことになるが、決してそうではない。このような「選択的な事実の伝達」は一番たちが悪い。不完全な情報、意図的に抽出された情報、隠ぺいされた情報で、誤った判断や意思決定をしてしまう上司は被害者である。

 「情報の非対称性」とは、市場における各取引主体が保有する情報に差があるときの、その不均等な情報構造を指している。片方が事情をよく把握しており、ほぼ完全な情報をもっているのに、相手はそうではない。双方で情報の共有ができていない状態である。特に海外の経営現場では、言語の障害も加わると、日本人経営者は情報弱者の立場に陥りやすい。

 日本語が流暢で右腕とされる現地人部下が往々にして「情報の非対称性」を作り出す元凶になっているケースも少なくない。自分に都合の良い事実しか伝えない。調子の良いイエスマンに持ち上げられると、日本人はどんどん罠にはまっていくわけだ。

 さらに悪いことがある。某大手企業K社の海外現地法人では、ゴマすり上手な現地人スタッフC氏が異例の早さで出世し、副社長にまで昇進した。元上司の日本人トップA氏が数年の駐在を終え帰国すると本社役員に昇格。後任の日本人社長B氏が現地に赴任するや、C氏に不正行為の疑惑がかかっていることに気付く。さっそく是正や摘発に乗り出すと、B氏は本社役員のA氏に呼び出され、「お前は自分が日本人だからといって、現地人社員をいじめるな」と一喝される。現地人副社長のC氏が元上司のA氏に告げ口をしたのだ。笑うに笑えない話である。

 「情報の非対称性」の被害者だったA氏が一転して加害者に回る。このように、事実上すでに現地人に乗っ取られ、不正が蔓延している日系企業海外拠点は少なくない。新聞に出ているようなニュースは、あくまでも氷山の一角に過ぎない。

 「情報の非対称性」を避けるには、完全な情報の仕入れに努めなければならない。たとえば、情報の仕入れチャンネルを複数に確保すること。特に立場が相反する複数の当事者から情報を仕入れ、異なる声に耳を傾けること、そして裏付けを取り、情報を検証することが大切である。だが、そこまでできる人はほんの一握りに過ぎない。そのうえ冷静に物事を判断しようとすると、上記のB氏のように組織の上位者に叩かれることも少なくない。繰り返し言っているように、本来、議論の対象は「Who」ではなく、「What」でなければならないのであるが……。

関連記事

新着記事

»もっと見る