中東を読み解く

2019年6月4日

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 トランプ大統領が“世紀の取引”と大風呂敷を広げた米国の新しい中東和平構想が公表前から早くも崩壊の瀬戸際に立たされている。イスラエルのネタニヤフ首相が組閣に失敗したことが大きいが、パレスチナ国家やエルサレム問題など対立する「政治面」を先送りし、「経済面」を優先したいびつな提案方式に元々無理があるとの見方が強い。

ヨルダン川西岸の都市ラマッラーでトランプ大統領に抗議するパレスチナ市民(REUTERS/AFLO)

他人のふんどしで相撲

 中東和平構想はトランプ大統領の娘婿、ジャレッド・クシュナー上級顧問が責任者として推進してきた。構想の具体的な内容は厳しいかん口令が敷かれて、秘密のベールに包まれたままだが、二段階構えで公表される方針であることははっきりしている。

 第一弾として、最初にパレスチナや、和平構想を支える周辺諸国に対する巨額の経済援助や投資、企業誘致など「経済支援策」に関する内容が明らかにされる予定だ。クシュナー氏はサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)というペルシャ湾岸の石油2大国を牛耳るムハンマド両皇太子(同名)と水面下で話を進め、6月25、26の両日、バーレーンで「パレスチナ経済支援会議」を開催することを決め、会議の場で支援策を公表する方針だ。

 会議にはサウジ、UAEなどペルシャ湾岸協力会議(GCC)の加盟国やエジプト、ヨルダンなどアラブ諸国、欧州やアジア諸国の代表も参加する予定。クシュナー氏は参加国に経済支援のための拠出を要請するが、どの程度の資金を集められるかが最大の焦点だ。

 アナリストの一部はトランプ一族の「不動産プロジェクト」のような提案になると見ているが、米国はカネを出さず、他の国に出させるのがミソ。要は“他人のふんどしで相撲を取る”というトランプ氏お得意の手法だ。

 しかし、会議の見通しは暗い。当事者であるパレスチナ自治政府のアッバス議長は「米国から相談さえ受けていない。会議は失敗するだろう」と、早々にボイコットを表明。エルサレムへの米大使館を移転や、パレスチナへの援助停止などイスラエル寄りの政策を取ってきたトランプ政権への反発を示した。

 最大の問題はパレスチナ国家の創設やエルサレムの帰属、難民の帰還などパレスチナ紛争の難題をすべて先送りし、経済支援だけを先行させるやり方だろう。ワシントン・ポストによると、米国のシャピロ元イスラエル大使は会議を「“幽霊”経済サミット」と呼び、実体が明らかになっていない構想に支援を求めることに大きな疑問を呈している。

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