世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年6月11日

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 4月から5月にかけて、9億人の有権者を抱える世界最大の民主主義国インドで総選挙が行われ、5月23日に開票が行われた。その結果、モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)が、前回2014年を21議席上回る303議席を獲得、単独過半数に達した。事前の予想では、与党連合での過半数確保と言われていたので、予想を上回る圧勝であった。

(platongkoh/Adrian Catalin Lazar/AlexandrMoroz/iStock)

 この結果の要因としては、まず、モディのカリスマ的政治本能と野党の混乱が挙げられる。かつて政権党であった国民議会派は、前回に続き敗北した。前回より8議席増やしたとはいえ獲得議席は52にとどまった。ガンジー家の「御曹司」ラフル・ガンジー国民会議派総裁は、頼りなさを全く払拭できなかった。

 そして、BJPの勝利の一つの理由として、BJPが反イスラムのナショナリズムに訴えたことが指摘されている。インドは国民の80%がヒンドゥー教徒(イスラム教徒が14%)であるから、選挙でヒンドゥー教徒の支持を得ようとするのは当然である。しかし、インドはパキスタンとの関係もあり、ヒンドゥーとイスラムの宗派対立に火がつきやすい。今回の選挙では、カシミール地方におけるイスラム過激派の自爆テロに対するモディ政権によるパキスタンへの越境爆撃でインドのナショナリズムが高揚し、それが総選挙でBJPを大いに助けたという。カシミール地方のパキスタン支配地域の爆撃は、カシミール地方のインド支配地域でのイスラム過激派のテロ攻撃に対する報復としてインドが行ったもので、たとえ選挙がなかったとしてもインド政府は実行していたであろう。ただ、この爆撃がヒンドゥー・ナショナリズムに大きく訴え、BJPが選挙で最大限利用したことは否めない。

 BJPは1998年にヒンドゥー至上主義を掲げて第一党になって以来、ヒンドゥー・ナショナリズムを強調、パキスタンに対する強硬姿勢を取ってきた。そのため穏健なヒンドゥー教徒の支持を無くし、2004年の選挙で負けている。BJPはヒンドゥー・ナショナリズムの党であるが、どの程度ヒンドゥー・ナショナリズムを強調するか注視していく必要があるようである。ヒンドゥー・ナショナリズムを過度に強調しないことが望まれる。

 モディ政権は経済改革の推進を看板にしてきた。したがって、経済政策に焦点を当てるべきである。インドの近代化、貧困の撲滅、インフラ整備、政府の効率化に取り組むべきである。特に農民対策に力を入れるべきだろう。インドの国民の約半分が農民であるが、その農民が食料品価格の引き下げ、生産コストの増大、水不足に悩まされているという。このままではモディ政権の経済振興策に、農民が取り残される危険がある。農民が経済発展から取り残されているという感じを強く持つようになると、これはもう政治問題である。モディ政権は農民の生活向上のみならずインドの政情不安定化防止のため、農民対策を重視する必要がある。

 インドは日本にとって重要な経済パートナーであるうえに、インド洋・太平洋地域の航行の自由を守り、地域での中国の影響力の増大に対抗するための、安全保障上の重要なパートナーである。モディは歴代インド首相の中で最も親米的な外交政策をとっている。第二次モディ政権がインドに安定と発展をもたらしてくれれば、インド太平洋構想にかなうことであり、日本にとっても歓迎すべきことである。仮にモディ政権が、経済改革に失敗し、求心力の維持を専らヒンドゥー・ナショナリズムに頼り、インド社会の不安定化を招き、ひいてはインドの国力が弱まるようなことがあれば、日本にとってもマイナスということになる。

  
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