世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年6月13日

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 5月23日から26日にかけて、EU加盟国各国で、欧州議会選挙が行われた。この欧州議会選挙は、有権者数では、インドに次ぐ世界第2の直接選挙である。5年の任期で、全議席を加盟国の人口比で配分し選挙が行われる。Brexitが延期されたことから、英国も含め28か国で実施された。

(WINS86/cherstva/iStock)

 選挙の結果、これまでの二大政党の「欧州人民党グループ」と「社会民主進歩同盟」が大きく議席を減らし、初めて過半数を失った。二党は、今回大きく議席を増やしたリベラル派の「欧州自由民主同盟」など親EU派の諸党と併せ、過半数の確保を目指すことになる。

 他方、ポピュリスト政党は予想ほど伸びず、ユーロ懐疑派政党などと合わせ、反EU勢力は、全議席の約30%を占めるにとどまった。

 今回の欧州議会選挙は、欧州の政治にとって大きな意味を持つ。

 第一は、ポピュリズムの勢いが予想ほど大きくなかったことである。選挙前には、ポピュリズム政党の躍進が広く予想されていたが、選挙結果は予想を裏切った。これは、一つには、ポピュリズム政党の躍進に危機感を抱いた有権者が、広く選挙に参加したためとみられる。今回の選挙の投票率は50%以上と、1994年以来最高となったという。特に、若者の参加率が高かったとのことである。ドイツでも投票率がここ20年40%台であったのが、今回は60%に上昇した。ポピュリスト政党と反エスタブリッシュメント政党、ユーロ懐疑派政党を含めた反EU派の全体の得票率は約30%であり、今回の選挙がEUについての信任投票の意味も持っていたとすれば、EUの主権者の大半が依然EUを支持していることが明らかになったと言えよう。

 第二は、これまで欧州議会を支配してきた二大政党が大敗したことである。これは、国レベルでの既存政党に対する不満の高まりを反映するものである。その結果、欧州議会では二大政党が初めて過半数を失い、リベラル派の「欧州自由民主同盟」ほかを合わせてようやく親EU派が過半数を維持することになる。

 これは、欧州がかつてないほど分裂していることを象徴している。欧州議会では、今後、移民問題や財政規律の問題で議論がなかなか集約せず、審議が停滞することも予想される。

 それは欧州議会にとって残念なことでもある。今回の選挙ではポピュリスト政党の躍進の可能性に対する危機感もあって投票率が大幅に上昇し、これまで多くの欧州人にとって遠い存在であった欧州議会に対する関心が高まった。欧州議会の存在感が増し、欧州議会の正当性が広く認められたことになる。その欧州議会で与党の過半数が多数の政党からなるもので、容易に動きが取れないとなると、今回の選挙で示された欧州議会に対する期待が裏切られることになりかねない。

 これは、EUへの信任がなされた結果であり逆説的なことではあるが、民主主義を重視し、多様性を基礎とする欧州では仕方のないことで、現在の姿を現しているのだろう。多数政党で分裂した欧州議会は、民主主義が機能していることの反映でもある。1947年、ウィンストン・チャーチルは、「実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが」と下院の演説で述べた。ある種の真理を語っていよう。

 欧州議会には、法案、条約、予算、欧州委員会の人事の承認など一定の役割があり、今までに比べて分裂した状況では、議会における政策調整が難しくなる。しかし、仮にEU の政策が停滞するとすれば、それは欧州議会だけの問題ではない。むしろ、加盟国における欧州懐疑派の勢力伸長に伴い、首脳会議、EU理事会、欧州議会その他あらゆるレベルでの政策調整が円滑に進まなくなるからというべきであろう。

  
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