名門校、未来への学び

2019年6月10日

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松沢雅彦撮影

暴力の虚しさを悟る

 明らかにリーの影響下で格闘技を始めた江見さんだったが、その思想性にも触れ、徐々に内面的な変化を経た。23歳で渡米したアメリカで、知り合った日本人の友人のボーイフレンドが、いわゆるストリートギャングで、彼が自慢げに晒した胸の弾痕を見て、暴力の虚しさを悟ったという。

 そこで行き着いたのが、独創的な「怒らない経営」なのだ。世の多くの経営者や上司たちが、雇用者や部下を叱りながら、自分の不安や不満をついでにぶつけていると気づき、江見さんはそんな経営哲学を唱えるようになった。

 「子どもの時に弱かった自分は、強くなろうとばかり思っていた。でもね、高校時代はいくらツッパっていても、無駄な喧嘩はしなかった。やっぱり負けたくないんで(笑)。戦わずして勝つというのが理想ですよね。

 チンピラはただ意気がって、強そうに見せかけ、肉体的な誇示もするけど、それはカッコ悪い。西部劇なら、ヨボヨボの爺さんが実は凄い早撃ちのガンマンという、クリント・イーストウッドみたいなほうがカッコいい。

 経営というのは合理性の追求なわけだけど、怒らないほうが勝てる。平たく言えば、儲かるんです。そう計算し尽くしてやっている。孫正義さんやウォーレン・バフェットも同じようなことを言ってるけど、表現の仕方が違うだけ。みんなの得が集まると、自分が一番得をしてしまう(笑)。

 高校時代は自分でのめり込めることはともかく徹底的にやった。その頃に始めたといえば、日記代わりに日々の気づきや、疑問をノートに書き付けておくことかな。とてもお見せできる代物じゃないんだけど、例えば殺人はなぜいけないのか—などについて、当時の自分なりの思いを書きなぐっていました。

 人の命ほど重いものはないと言いながら、死刑制度があるのは矛盾している。しかし、先日発生した登戸の通り魔殺人のような事件が起きてしまう。どうすればいいのか…。そうやって自分自身で考える癖は当時からつけていたと思います」

 江見さんはこの後もほとばしるように持論を開陳し続けたが、全部を書けば、それこそ一冊の本になりそうだ。確かに、たかだか「勝つために怒る」なんてナンセンス。義務教育のレベルでそれがわかるように示さねば、競争原理の犠牲者をいたずらに出すだけだ。

 岐阜県でも学校群制度が廃止されて以降、再び岐阜高校への学力一極化が進んでいるが、こんなにもユニークな同窓生を輩出したことは、かなりの成果と言えるだろう。

【江見朗プロフィール】
1979年岐阜県立岐阜高校を卒業後、大学には進学せず、単身ロサンゼルスへ渡米。現地で寿司職人として7年半を過ごして帰国後、岐阜市内のショットバーで常連客同士であった松島和之氏(現ライドオンエクスプレスホールディングス取締役副社長)と意気投合、92年に岐阜市内でサンドイッチ店「サブマリン」を開業。その後、98年に創業した宅配寿司専門店(のちの「銀のさら」)を宅配寿司業界NO.1企業へと成長させる。2001年ライドオンエクスプレス(現・ライドオンエクスプレスホールディングス)設立、代表取締役社長就任(現任)。

 日本を代表する名門高校はイノベーションの最高のサンプルだ。伝統をバネにして絶えず再生を繰り返している。1世紀にも及ぶ蓄積された教えと学びのスキル、課外活動から生ずるエンパワーメント、校外にも構築される文化資本、なにより輩出する人材の豊富さ…。本物の名門はステータスに奢らず、それらすべてを肥やしに邁進を続ける。

 学校とは単に生徒の学力を担保する場ではない。どうして名門と称される学校は逸材を輩出し続けるのか? Wedge本誌では、連載「名門校、未来への学び」において、名門高校の現在の姿に密着し、その魅力・実力を立体的に伝えている。このコーナーでは、毎回登場校のOB・OGに登場願い、当時の思い出や今に繋がるエッセンスを語ってもらう。

 現在発売中のWedge6月号では、岐阜高校生物班の取り組みを紹介しています。

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