WEDGE REPORT

2019年6月10日

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土居丈朗 (どい・たけろう)

慶應義塾大学経済学部教授

東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手などを経て現職。『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社)で2007年度日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞を受賞。税制調査会委員等を兼務。
 

 もっと違うところに解決策がある。それは、高齢者同士で世代内の助け合いを強化することである。確かに、社会保障の従来の仕組みは、世代間の助け合いを重視してきた。経済力が弱った高齢者を、働き盛りの現役世代が助ける。その美しい姿は、あいにく急速な少子高齢化によって持続不可能になった。世代間の不公平も拡大しており、現役世代や企業の負担に寄りかかることはもうできない。

 ところが、今の現役世代よりも恵まれた経済力を持つ高齢者は、幸いにも多くいる。わが国の家計の金融資産の65%は60歳以上の人が保有している。他方、退職後の年金額に不安がある人も多くいる。

 より多く年金給付を受け取れる高齢者と、わずかしか受け取れない高齢者がいる中で、わずかしか受け取れない高齢者をどう助けるか。社会保障の従来の仕組みでは、現役世代や企業に負担させることで解決しようとしたが、それでは世代間格差と非正規雇用化を助長するだけである。

 そうではなく、より多く年金給付を受ける高齢者に、適正に所得税を納めてもらうことで、それを財源として年金給付の少ない高齢者を助ける方策が、未着手のまま残されている。

 その方策とは、公的年金等控除の縮小である。公的年金等控除額が多くなるほど、課税対象所得が少なくなり、所得税負担が減る仕組みとなっている。より多く年金を受け取る高齢者でも、控除が手厚いため、所得税をほとんど払わずに済んでいる。

 働いている高齢者は、年金給付に与えられる公的年金等控除に加えて、給料に対して与えられる給与所得控除も併用できる。そのため、同じ課税前収入でも、給料しか稼いでいない現役世代よりも控除額が多くなって、所得税負担が軽くなる。これにより、筆者の分析では、同じ課税前収入でも、高齢者の9割は現役世代よりも税負担が軽くなっている。

 給料のみの現役世代では、850万円以上になると給与所得控除は上限に達して増えない仕組みとなる(20年以降)。給与収入で850万円だと、ね上位10%の所得に位置する。それに対応した形で公的年金等控除を縮小するならば、年金収入で400万円以上得ている「高所得者」の控除は頭打ちにして、それ以上控除額が増えない形にすることで、高所得高齢者に現役並みの所得税負担を求めることができる。

 将来的には、事業主負担保険料の一部を、公的年金等控除の縮小で増える所得税収や消費税の税収で補えるようになれば、社会保険料による非正規雇用の増加を防ぐこともできるだろう。

 目に見える消費増税ばかり気にして、隠れた形で企業負担が増えることに目を背けていると、かえってわれわれの老後は安心できないものになる。いくつになっても意欲さえあれば働ける環境を整えるためには、企業に過剰な負担を求めないことも必要だ。社会保障制度の中で、「人生100年時代」にふさわしい負担と給付のバランスを追求してゆくことが重要である。

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PART 1   培ったスキルを生かし新天地で輝くシニアたち
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PART 4         シニアを不幸にする企業頼みの社会保障改革

  
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◆Wedge2019年6月号より

 
 

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 
 

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