Washington Files

2019年6月10日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

ロシア、中国、北朝鮮も

 これに対しロシアは旧ソ連時代に早くから、EMPの脅威を認識し、実際に過去に何度も、電気・通信システムに対するEMP被害調査を目的とした核実験を中央アジア上空で何度も実施してきたことが知られている。

 さらに今世紀に入り、ロシアに続いて中国、さらに北朝鮮までも、競うようにEMP兵器開発に乗り出し始めた。

 このため危機感を感じた米議会では2001年以来、超党派の軍事・通信専門家から成る「EMP対米攻撃の脅威評価委員会」を立ち上げ、継続的に実態把握と対策の検討に乗り出してきた。そして2018年4月公表された最新調査報告書では、以下のような点が浮き彫りにされた:

  1. 米国および同盟諸国は今日、北朝鮮および非国家組織を含む大小核保有国が乗り出し得る高高度核爆発に起因するEMPの実際的脅威にさらされている
  2. わが国の通信、交通、公衆衛生、食糧供給、給水といった電力グリッドに依存した緊要なインフラ体制は、EMP攻撃によるブラックアウト(大停電)によって1年あるいはそれ以上の長期にわたり機能停止となる。これらの多くのインフラ施設は緊急用発電機などを備えているものの、これらもEMP攻撃には脆弱性をさらけ出すことになる
  3. 大停電が長期化した場合、大多数の国民は、近代インフラのなかった1800年代のような生活を強いられることになるが、生活の知恵が働いていた当時とは異なり、現代人にはそうした備えもなく、社会全体の崩壊、病気の蔓延、飢餓を招くことになる
  4. ロシア、中国、北朝鮮、イランのような諸国の軍事ドクトリンの中には、電力グリッドおよびその他の緊要インフラの大部分をサイバー、核EMP攻撃によってブラックアウト状態に陥れ、わが国に早期に決定的にダメージを与える作戦が組み込まれている
  5. 核EMPはわずか1個または数個の核兵器を高高度で爆発させることで可能となり、しかも、人工衛星、長距離または巡航ミサイルや対艦ミサイルなどの短距離ミサイル、あるいは航空機、高高度風船などによっても運搬することができる
  6. ロシア、中国、北朝鮮はすでにこの核EMPによる対米攻撃能力を保有しており、テロリスト集団もその気になればEMP攻撃を仕掛けることも可能だ。というのは、ミサイル発射後の大気圏再突入システムや正確な標的誘導装置などの高度技術を必要としないからだ
  7. こうしたことから、わが国としては早急に電力グリッドおよびその他の緊要インフラに対しサイバー・セキュリティ対策を講じる必要がある

 上記のような指摘の中で、とくにわが国にとっての重大関心事は当面、北朝鮮の動きであることは言うまでもない。

 もし、米議会専門家委員会の評価通りだとすれば、北朝鮮はすでにいつでも、日本の領空、領海を度外視した高高度大気圏外で核兵器を爆発させ、EMP攻撃によって日本全土の緊要インフラを機能停止に追い込む能力を備えていることになるからだ。

 EMP兵器の脅威について、「ヘリテージ財団」レポートは「攻撃を受けた場合、エレクトロニクス機器、センサー、コミュニケーション・システム、防御装置、コンピューター類などが瞬時に機能マヒに陥る……EMP攻撃の陰湿な特色は、建物や住民に攻撃を加える必要がなく、それでいてただちに、そして長期にわたり被害をもたらすことができるという点だ」と強調している。

 また、元イスラエル軍准将でサイバー・セキュリティ問題を担当してきたアイザック・ベン・イスラエル氏は米誌とのインタビューで「もし、ある国に甚大な被害を与えたいと思うなら、電力および水道をノックダウンさせることだ。EMPのようなサイバー・テクノロジーは、銃弾を1発も撃つことなく、これを成し遂げることができる」と述べている。

 こうしたことから日本としても、今回の日米防衛相会談の結果を踏まえ、これまであまり真剣に議論されることのなかったEMP対策にも今後、本格的に取り組む必要に迫られて来ているといえよう。

  
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