世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年6月21日

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 昨年(2018年)6月12日、丁度1年程前、米国のトランプ大統領は、国交もなく、その前年(2017年)9月の国連総会の演説では「ロケット・マン」と呼んでいた、北朝鮮の金正恩労働党委員長と、初めての首脳会談をシンガポールで行った。朝鮮半島の非核化―実質的には北朝鮮の非核化―を進める米朝首脳による合意文書の署名も行われた。曖昧な内容だとしても、画期的なことだった。

(cmspic/Viktorcvetkovic/Yuliya Pauk/iStock)

 そして今年(2019年)2月には、ハノイで2度目の米朝首脳会談が開催された。楽観的に始まった会談だったが、結果は決裂した。非核化が先か、制裁緩和が先か、双方の思惑の違いが浮き彫りになった。これにより、今後の米朝関係がどうなるかは不透明なものとなった。

 このような状況の中で、北朝鮮の金正恩労働党委員長は、今や、中国やロシアとの連携を深めている。中ロ両国とも、北朝鮮との連携に、戦略的な利益を見出している。

 これに関して、ケント・ハリントン元CIA分析官は、北朝鮮は中ロとの協力強化等によって、その交渉の立場を着々と強化していると指摘している(2019年5月28日付Project Syndicate参照)。彼は2つのことを指摘している。1つ目は、今まで北朝鮮は、中ロをお互いに競争させる外交戦略だったのに対して、金正恩は中ロ双方と連携しようとしているとの指摘である。もう1つは、中ロが朝鮮半島で共同の緊急軍事計画を作っていたとしても驚くべきことではないとの指摘である。

 中ロとの連携により、金正恩は自らの外交力の幅を拡大したことは間違いないだろう。もちろん、中ロが常に一枚岩であるとは限らないが、金正恩委員長はその辺りも上手く利用するのだろう。北朝鮮がこのようなやり方で外交力を強化するのは、日米にとっては良い兆候ではない。トランプ大統領の強い1対1取引への選好からすれば、やりにくくなるかもしれない。しかし、中ロも北朝鮮の核武装化を望んでいるわけではない。従って、両国と上手く外交交渉をすれば、6か国協議の再開も不可能ではない。そう考えれば、悪いことばかりではないかもしれない。その意味で、米国のビーガン北朝鮮問題特別代表がロシアなどを訪問していることは良いことであり、必要なことである。日本にとっても両国との疎通が大事になる。

 北朝鮮の問題は、米朝の直接交渉が中心であり、それが不可欠である。しかし、米国は冷戦後に、国連安全保障理事会で、湾岸戦争やイラクへの対応などにつきロシアを引き込んだし、その後オバマ政権時代には対北朝鮮制裁について中国を引き込むことに成功した。中ロをこちら側に引き込んでおくことは重要である。そのためには、米国としても両国との関係をもう少し正常化しておく必要があろう。ただ、現状の米中貿易戦争の行方を見ていると、かなり難しいことも予想される。

 イラン問題だけでなく、北朝鮮についても、トランプ大統領とボルトン補佐官の発言の矛盾が露呈している。ボルトンは、5月の短距離ミサイル発射は国連安保理決議に違反すると述べているがー安倍総理も同様に発言しているー、トランプは5月27日の日米共同記者会見で「私の側近たちは決議違反に当たると考えている。しかし自分はそのようには考えていない」と述べ、決議違反ではないとの考えを示し周囲を驚かせた。トランプの狙いは別として、このように側近と大きく違う発言をすることは良いことではない。外交上の信頼性を損なうし、相手に間違ったシグナルを送ることになる。国連安保理決議上、弾道技術を使用したミサイルの発射が違反になることは明確にしておくべきである。トランプ大統領のこのような態度は、既に議会やメディアから批判されている。どんな意図であのような発言をしたのか、不明である。
 

  
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