世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年6月17日

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 6月3日から5日まで、トランプ大統領は、国賓として英国を訪問した。メイ首相は6月7日に保守党党首を辞任することを表明済みであった。英国がこういう状況にある時に国賓を迎えることは通例ない筈である。こういう状況は想定出来なかったのだから仕方がない。メイ首相としては、その辞任の時期をトランプの訪英が終わった後にすることしか出来なかった。いずれの側も訪問の中止をいい出すのは憚られたのであろう。

(Gerasimov174/rami_hakala/Dzyuba/iStock)

 トランプ訪英を前に、フィナンシャル・タイムズ紙のギデオン・ラックマンは、5月31日付けで‘Donald Trump’s state visit has Boris Johnson in the background’(トランプ訪英にジョンソンの影)と題する論説を書き、ボリス・ジョンソン前外相またはジェレミー・コービン労働党党首が首相である場合の英米関係を予測している。概要は次の通りである。

・ジョンソンは合意のないままEUを離脱することとバランスを取るためにトランプの米国と密接な関係を持とうとするであろう。対照的に、コービンは、1814年に英国の軍がホワイトハウスを全焼させた当時の首相であるリヴァプール伯爵以来、最も反米の首相となるであろう。

・トランプ・ジョンソンの特別な関係は両国の外交政策の相違を解消するが、英EU関係が敵対的なものとなり、早晩総選挙に追い込まれ得る。それは、コービンの思うつぼと言える。

・コービンは世界の諸問題の根源は米国だと考えており、米国は両国の特別な関係という考え方そのものに敵対的な最初の首相ということになるだろう。その結果、核兵器、インテリジェンスの共有、NATOといった安全保障の関係は忽ち問題となる。コービンは、国防支出を削減し、またバルト諸国に展開するNATO部隊から英軍を引き上げるかも知れない。もし、英国がそのNATOへのコミットメントを違えることがあれば、トランプのNATOに対する猜疑の念を増大させよう。

参考:Gideon Rachman, ‘Donald Trump’s state visit has Boris Johnson in the background’(Financial Times, May 31, 2019)
https://www.ft.com/content/1adf74d6-82c5-11e9-b592-5fe435b57a3b

 トランプは、ジョンソンのことを「素晴らしい」と褒めている。トランプ・ジョンソンの特別な関係は両国の外交政策の相違を解消すると上記論説はいう。そうかも知れない。しかし、そうでないかも知れない。例えば、今度の訪英でトランプは英国がHuawei の機器の5G ネットワークへの採用を控えるよう要求し、そうでなければインテリジェンスの共有が出来なくなると脅迫することが予想されていた。メイは何とか無難にやり過ごしたようだが、ジョンソンならどうしたか、分からない。いずれにせよ、単なる外交政策の相違の解消は、論説のいう「英米の特別な関係の劇的な復活」を意味しない。

 トランプとジョンソンでは、全体として英米の特別な関係は変質するであろう。両国の関係が特別であった所以は、英国がその長い歴史に裏打ちされた外交の知恵と小粒ではあるが必要とあらば軍事力を行使する能力と意思を持ち合わせた国として、米国の良き相談相手であり、相棒であったからである。そういう関係が国際的な秩序の維持、調整、強化に積極的な意義を持っていた。トランプ・ジョンソンの特別な関係はその種の積極的な意義を失うであろう。両者は「瀬戸物を叩き割る外交」で歩調を合わせることになるのであろう。

 ラックマンは、ジョンソンのEUに対するやり口は危険であり、早晩崩壊するといっているが、その辺りのことは分からない。相当な軋轢を生むであろうが、崩壊するとは限らない。「ジョンソン政権」が崩壊すれば、コービンの出番となるのかも知れないが、それは悪夢のように思われる。

  
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