世界の記述

2019年6月14日

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水谷竹秀 (みずたに・たけひで)

ノンフィクションライター

1975年三重県桑名市生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業、カメラマンや新聞記者を経てフリーに。2011年『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』(集英社)で開高健ノンフィクション賞受賞。近著に『脱出老人』(小学館)。

 フィリピンで5月13日に中間選挙が行われ、上下両院でドゥテルテ大統領(74)を支持する勢力が圧勝した。2016年6月末に発足以来、7〜8割という高支持率を維持してきた現政権に対する国民の信任が裏付けられた形だ。

(Aquir/photominus/iStock)

 今回の勝利は政権内で「ドゥテルテマジック」と呼ばれ、任期が終了する22年まで強権体制が続く見通し。大統領が公約に掲げていた死刑制度の復活や連邦制導入に向けた憲法改正の審議が前進しそうだ。

 中間選挙は、大統領任期6年の折り返しの年に実施され、上院は半数の12議席、下院は約300議席、全81州の知事、各市長など計1万8000ものポストが争われた。

 政権運営に影響を与える全国区の上院選では、12議席中、11議席を与党連合が占めた。トップ当選は、再選を果たしたシンシア・ビリヤール上院議員。夫のマニュエル・ビリヤール元上院議員は不動産業で財をなした実業家だ。大統領の側近で元大統領補佐官のクリストファー・ゴー氏、麻薬撲滅戦争を指揮したデラロサ前国家警察長官も上位に食い込んだほか、故マルコス大統領の長女、アイミー・マルコス氏も当選した。

 対する野党連合の候補者は軒並み落選した。この結果、反ドゥテルテ派が減り、非改選を含めた上院24議席のうち、少なくとも7割が与党勢となった。

 ドゥテルテ大統領が公約に掲げていた死刑制度の復活は、17年に下院で法案が可決された。ドゥテルテ派が過半数を占めた上院で今後、復活法案が可決される可能性が高まっているが、カトリック司教協議会(CBCP)は「死刑制度は犯罪の抑止力にならない」と反発しており、成立までには曲折も予想される。フィリピンの死刑制度は、ラモス政権下の1993年に復活したが、アロヨ政権下の06年に廃止されている。

 このほか、インフラ整備の推進や、地方における自治権を強化する連邦制の導入に向け、停滞していた憲法改正の議論も活発化しそうだ。

 外交では、大統領がこれまで進めてきた親中路線の行方が注目される。南沙諸島の領有権問題では、中国から経済援助を引き出す見返りに軍事拠点化を黙認してきた。しかし、中間選挙の1カ月前には中国への態度を硬化させる発言が飛び出し、5月下旬の訪日時にも「海全体を一国が主張するのは正しいのか」と疑問を呈するなど、中国に対する不信感を示す場面も出てきた。一方でこうした姿勢は、選挙を踏まえたリップサービスとの見方もある。

 憲法では大統領の再選は禁じられている。ドゥテルテ大統領は22年に任期を終えることになるが、次期大統領選で反ドゥテルテ派が巻き返しを図れば、麻薬撲滅戦争による超法規的殺人や隠し資産疑惑などで逮捕、訴追される可能性がある。歴代政権では、エストラダ(任期1998〜2001)、アロヨ(同01〜10)両大統領が汚職に関与したとして政権交代後に逮捕された。

 次期大統領選の候補者には早くも、ドゥテルテ大統領の娘で、サラ・ダバオ市長の名前が上がっており、今回の中間選挙でも改革党を立ち上げて勝利に貢献した。大統領は任期終了後に自身が逮捕されることを阻止するためにも、サラ市長を次期候補に見据えた政権運営を行うとみられる。
 

  
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