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2019年6月13日

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島澤 諭 (しまさわ・まなぶ)

中部圏社会経済研究所研究部長

富山県生まれ。1994年東京大学経済学部卒業 同年4月経済企画庁入庁。調査局内国調査第一課、総合計画局計量班、調査局国際経済第一課等を経て2001年内閣府退官。02年秋田経済法科大学経済学部専任講師、04年10月秋田大学教育文化学部准教授。12年4月より現職。*記事はすべて筆者の個人的見解であって、筆者の所属組織とは無関係です。

(itasun / iStock / Getty Images Plus)

年金問題を巡って繰り返される与野党の争い

 金融庁の審議会が「公的年金だけでは老後の生活資金が2000万円不足する」「公的年金は今後実質的に切り下げられる(調整される)」との指摘を盛り込んだ報告書「高齢社会における資産形成・管理」原案が報道されて以来、自民党は金融庁に報告書の撤回を要求し、その受け取りを拒否するなど政府与党に混乱が広がっている。かかる事態に対して、立憲民主党は「安心安心詐欺」と批判し、2004年の参議院議員選挙で消えた年金問題を追及し第一次安倍内閣を退陣に追い込み、その後の政権交代に繋げた成功体験を忘れられず、二匹目の泥鰌を狙ってか、7月に予定される参院選の争点化を宣言するなど、野党各党が攻勢を強めている。

 しかし、年金問題を政治争点化しても国民には何ら利益がないことは、2009年の政権交代のきっかけとなった「消えた年金問題」は結局解決しなかったことや、消費税引き上げにより社会保障を強化するとした税と社会保障の一体改革も、最終的には消費税引き上げに対する各党のスタンスの違いから頓挫したことなど、これまでの年金改革の歴史を振り返っても明らかだ。

「100年安心プラン」への誤解

 今回の騒動の発端となった2004年の年金制度改革いわゆる「100年安心プラン」では、少子化、高齢化の進行に鑑み、それまでの年金支給額の増加に応じて現役世代の負担を増加させる仕組みを維持すれば、現役世代の負担が重くなりすぎて、社会保障制度を支える基盤である現役世代の生活が破壊されてしまっては元も子もないという至極もっともな懸念から、現役世代が負担できる範囲内で高齢者への給費水を決める仕組みへと180度転換した。なお、同時に、給付水準が際限なく下がっていくことは問題であり、一定の給付水準を確保するため、給付水準の下限を現役世代の所得の 50%とされた。

 この改革により、年金財政の収支バランスが崩れた時に負担増を嫌う現役世代の反対で必要な財源が確保できずに年金財政が危機に陥る事態は回避され年金財政の安定性が増したため100年安心プランと呼ばれる所以である。さらに、念には念を入れ、5年に一度年金財政の状況を再評価し、もし安定性に疑問が付く場合には、相応の対応を取ることとされた。これまで、2009年、2014年の2度にわたって財政再検証が公表され、今年が3回目の財政再検証公表の年に当たる。

 しかし、年金財政の一応の安定を確保した裏側で、現役世代が負担できる水準に応じて高齢世代の給付額を決めることになり、所得代替率50%という給付水準の下限を導入したとはいっても、現役世代の所得水準が下がり続ければ、それにあわせて高齢者の年金給付額も下がり続けることから、今度は逆に高齢世代の給付額の安定性が損なわれることとなった。好調な経済を背景に現役世代の所得水準が上昇し負担力が上がるのであれば年金額も増えるが、現状では経済が低迷し所得も一向に増えず負担力は落ちる一方で年金額が増える余地がないからだ。

 このように、国民の間には誤解があるようだが、100年安心なのは年金制度であって、我々の年金額ではない。

2014年財政再検証でも書かれていた年金切り下げ

 2014年の「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」(以下、2014年財政再検証)では、賃金上昇、運用利回り、インフレ率などに関してさまざまな想定を置いた8つのケースのもとで、所得代替率(年金給付額が現役世代の所得の何割に相当するか)がどのように推移するかを示している。

 現状から考えると実現不可能な高経済成長ケース(ケースAからケースE)を前提としてはじめて、所得代替率が50%を維持できるが、より現状に近い低成長ケース(ケースF・ケースG)では所得代替率が40%台に達する事態も想定されている。例えば、所得代替率が40%とは現役世代の所得が30万円だとすれば年金給付額は12万円になるということだ。

 財政再検証に関しては、厚生労働省のウェブサイトで、年金部会に提出された詳細な資料などともに全て公開されている。与野党の政治家も、メディアも、国民も知らなかったでは済まされないはずなのだが、今更大騒ぎしているのはなぜだろうか。

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