ちょっと寄り道うまいもの

2012年1月13日

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 海苔といえば浅草海苔というくらいで、江戸前。そして、有明海方面というのが、一般的な認識ではないか。かくいう私もその程度のことしか知らなかったもので、友人が「どうだ参ったか」という文面と共に送ってくれた海苔を食べて、唸り、「何故?」と思った。製造元の三國屋の住所が広島だったのだ。広島の海苔?

 しっかりと均一に肉厚で美しい色艶。磯の香りがほのかに漂って、口に含むとさくっとした心地よい歯触り、そしてとろける。まさに海苔の味わいとはかくあるべし、というものが広がる。そんな海苔である。その味わいと広島が、私の中でつながらない。

 こんな時は訪ねるしかない。今ごろは海苔を摘んでいる時期ではないか。おまけに、誰でも知っている広島の名物、牡蠣も季節ではないか。

 「広島は江戸時代から瀬戸内の流通の要であっただけでなく、江戸前に次ぐ海苔の産地だったのです。質の良い海苔で知られていたのです」

 もともとは工場だったという、昭和の匂いのする三國屋の店舗を訪ねると、常務の三村出(いずる)さんはそう説明してくれた。江戸時代に養殖が始まり、特に大阪を中心とした関西の市場では海苔といえば、広島産だったのだという。

 なるほど。では、その養殖している場所に連れて行ってくださいなというと、ちょっと遠すぎる、有明海が中心なので、という返事。

 三村家は江戸時代から、土地有数の網元だった。その一族が海苔も扱っていた。ところが、戦後、海岸の埋め立てによって、その海苔の漁場は姿を消してしまった。今は、そんな訳だから有明海を中心とした各地の産地から仕入れたものを、製品にしているということなのだ。

 話を詳しく聞いていて、思い出したのが、昆布の話。昆布のお勉強をしようと、北海道の産地を訪ねたら、北陸の敦賀を訪ねた方が良いと、現地で言われたことがあった。

 北前船以来の伝統で、老舗の昆布問屋がそこにある。各産地のものが選抜され、集められ、熟成されている。そこにあるのが一番の昆布なのだから、産地よりも敦賀に行く方が昆布のことも分かると言うのだ。何はともあれ、産地に行くのが第一だと思っていたもので、なるほど、そのようなこともあるのかと思ったものだった。海苔にもそれと同じようなところがあるようなのだ。「これは」というものを仕入れる目利きであること、そして、それをさらに最良の状態に乾燥させたりの商品化。お茶やワインの仲買に通じるか。

海苔の目利き、三國屋の新尺基之さん。山と積まれた箱には、そこかしこの産地名が

 工場を訪ね、仕入れ担当の新尺(しんじゃく)基之さんに話を聞いた。宅配便の発達で、高価だが軽いお歳暮という海苔の需要は激減した。それとコンビニのお握りマーケットの拡大等々で、海苔の消費形態が変わった。その中で、良い海苔を食べたければ、意識して探さねばならない。たとえば関東は食感の強い厚めを好み、関西は相対的に薄めだが、厚さよりも旨みで評価する、という嗜好の差もある。あれこれ食べ比べてもらえば、好みで良質の海苔が見つかるはず……と。

 そうそう。一般的な焼海苔や味付け海苔以外にも、ゴマ油と塩の韓国海苔のように、有機栽培のシチリア産オリーブ油とフランスのゲランドの塩のコンビというユニークな商品も三國屋にはある。ワインを呼ぶ海苔。初めての味。

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